特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2013年4月「急げ!中小企業のグローバル人材の採用・育成と海外展開」

●2013年4月「急げ!中小企業のグローバル人材の採用・育成と海外展開」

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2013年 4月 「急げ!中小企業のグローバル人材の採用・育成と海外展開」
中小企業診断士 小谷 泰三

メールはt-otani@mtc.biglobe.ne.jpまで願います。

 
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アベノミックスと言われる3本の矢に象徴されるデフレ経済脱出のターゲットも、日銀新総裁による大胆な金融緩和政策も、この狭い日本の土壌でパイを競い合っていたのでは、多くの中小企業にとって本当に恩恵を受けることは出来ません。

これからは、成長著しい新興国・発展途上国を含めた海外の国々とのグローバルなビジネス(海外進出だけでなく輸出入を含めて)の展開なくして、物質的に資源の乏しいわが国の明るい未来はありません。

そのために、今一番望まれることは真のグローバル人材の育成なのです。
今回は、この課題と対処の仕方について考えてみましょう。

1.海外で売れる商品 売れない商品の差は何処から生じたのか

このところの失われた20年と言われている日本のGDPの停滞(購買力平価換算(注)での日本のGDPシェア率は1991年の10%台から5%台に半減)は、高度成長期に世界を凌駕していた家電、オーディオ機器、半導体製品、鉄鋼・金属製品、一部企業を除いた繊維・衣料品やソフト開発等の産業分野におけるグローバル戦略での敗因によるところが大きいのです。

一方、海外での売上が比較的順調か好調な分野は、自動車、バイク、建設機械、デジカメ、金型、精密機械部品、紙おむつ・ベビー用品、化粧品・日用雑貨、インスタント食品、調味料、飲料・酒類、プレハブ、日本食レストラン、コンビ二、マンガ・アニメ、学習塾、産業廃棄物・リサイクル・リユース商品や流通・物流事業などです。
この分野で活躍している中小・中堅企業も多く存在しています。

(注)購買力平価とは、「為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決まる」
 という購買力平価説をもとに算出された交換比率です。各国の物価の違いを修正して比
 較できるため、より実質的な評価・比較ができると言われています。

一体この差はどうして生じたのでしょうか。

戦後の高度成長期までは、仕事一筋に気概を持って働いた日本人の優秀さで、世界に類を見ない「高品質」・「高機能」・「高価格」商品を世に送り出してきました。
また、円高と国内の人件費が高騰するや海外に製造拠点を設け、さらに「日本式の経営管理組織」をそのまま持ち込んで、現地の労働力を活用し商品をつくり続けてきました。

その主な販売先は日本、先進国および海外の日系企業なのです。

しかし、新興国や発展途上国において耐久消費財や電子機器等が売れ始めると、これらローカルな国ごとの趣向や生活レベルに合わせたマーケティングを展開していた韓国、台湾、インドや欧米諸国に海外市場は奪われてしまいました。

日本の商品の多くは、日本で開発された企業独自の技術を基に摺り合わせ技術を多用したのに対し、外国商品は部品の標準化・モジュール化を図り、海外の何処でも調達し易く、短納期で安価な商品とデザインで勝負してきました。いつの間にか日本の商品は日本人だけが満足し、世界の潮流から外れてしまいガラパゴス化してしまったのです。

負け組の企業は、事業を現地人に任せる現地化や多国籍化にも遅れ、意思決定は日本本社に伺いを立てており、アクションも遅かったのです。つまり真のグローバル人材を育てておらず、海外派遣者も2〜3年で交代させられるケースがほとんどでした。

日本の技術力や知識力は先進国の上位にありながら、異文化コミュニケーション、職場での協調性、リーダーシップの面で外国のビジネスマンより一般に劣っており、海外でも日本人部落をつくり、職場外でも日本人だけが集まって行動するなど、グローバル社会で通用しない特異な環境で海外生活を過ごしている海外派遣者が多いのです。

その点、海外で多くの収益を上げている企業は、グローバル人材を育て上げると共に、現地化にも気を配り、経営者や管理者の中に現地人や外国人を登用しています。伸びている日系企業も、日本からの派遣者は5年以上の長期滞在をさせ、現地に溶け込み現地人とのコミュニケーションを密にし、現地の状況をよく把握できるグローバル人材を育てて海外戦略を打ち立てています。

2.日本人だけの土俵から世界の土俵で活動しよう

インターネットやクラウド化するIT分野でのグローバル化は、ビジネスの世界を劇的に変化させています。つまり、世界での繋がりが20年前とは比較にならない程、身近になりスピード化しており、世界は小さくなったと言えます。リアルタイムで相互の情報交換や経理や決済処理等ができてしまいます。何も日本に本社を置く必要もないのです。

国際航空や国際物流も日進月歩しています。小物商品や生鮮食料品などは2〜3日で航空貨物と宅配便のコンビネーションで世界の主要都市にDoor to Doorで届けられる時代です。
したがって、企業の拠点やマーケットを島国の日本にだけ絞っていたのでは、稼げるパイが益々縮小してしまいます。

会社によっては、日本でずっと安定したビジネスをやっており、ノウハウや高度な技術を持っているので海外にまで出て行く必要はないと決めている経営者もおられます。しかし、これからは日本の大企業だけでなく、注目されている中小企業も外資系企業が虎視眈々と狙っており、いつ買収されてしまうか分からない危険があります。外国人経営者に経営を牛耳られてしまうことにもなりかねません。

他社に真似のできない強みを持っている中小企業は、経営者の意欲で自らグローバル化に転じれば、海外でも一目おかれる立場で渡り合えることも可能です。

でも、海外で事業を行うには、それなりの慎重な準備が必要です。常に、どの国でビジネスを行えば自社の強みやビジョンを生かせ、自社の望むビジネス環境が整っているかのフィージビリティ・スタディー(進出可能性の調査・計画)をすることが大変重要です。

海外ビジネスでは「暗黙の了解」とか「あうんの呼吸」は通用しません。異質の集団とのつき合いが始まるからです。そのためには、グローバルマインドを持った人材の養成・、採用、もしくはグローバル化をサポートしてくれる機関との提携が必要となります。
このことに手をこまねいていては、会社の飛躍的伸びや成長は期待できないでしょう。

早くから海外拠点とのネットワークを築き、グローバル人材を活用し現地化に成功した企業には、後から追随してくる企業よりも収益を多く稼ぎ出している傾向が見られます。
日本国内で経営する以上に、海外進出では幾多のリスクが生じますが、一方では立地や税制面等々でのメリットもあります。
これらに関する具体的な内容は、今回はテーマから外れますので、ここでは割愛します。

3.BOP市場への関心と取り組みを始めよう

BOPとはBase(またはBottom)of the Pyramidの略で、世界の所得ピラミッドのベースから過半数を占める所得層(年間3000ドル以下で暮らす世帯層)を意味します。
このBOPの市場規模は約40億人、5兆ドル(日本のGDPに匹敵)市場として成長性が期待されています。
グローバル企業としては、現地の貧困生活のレベルアップに寄与する農業・食品、エネルギー、教育、医療、衛生や環境といった課題解決に取り組むことで注目されています。

この分野でも欧米や韓国、中国などに比べ日本は遅れているのです。
また、2030年迄にはBOP層の多くはMOP層(Middle of the Pyramid)へ移行し、55億人、GDP8兆ドル以上がこの層に組み込まれると考えられています。(図表T参照)

先進国政府のODA無償資金援助による貧困層撲滅対策は、期待される効果が発揮できておらず、民間やNGOグループが現地市民とタイアップした形での推進に切り替えています。

このような分野でグローバル化を推進している企業は、次のようなことを行っています。
1)BOP層という新たな市場へのビジネスの可能性と商品の創造
2)貧困等のグローバル課題への解決
3)改良型、安価な商品の供給体制への現地人を巻き込んだビジネスモデルの構築
4)寄付等の社会的な資金や政府機関・NGO等との連携

これ以上のことはここでは触れませんが、BOP市場へのアプローチは外国企業が先行している中で、先進的な日本企業も中小企業を含め、食料品、衣料、エネルギー、医療、雑貨、水の浄化等々で貢献し始めています。

このビジネスこそ、真の現地に溶け込んだ経験のあるグローバル人材の活躍が必要であり、日本の中小企業が培ってきた職人的な創意工夫、苦労と忍耐が活かせる分野です。つまり日本企業や日本人の体質に合ったビジネスと言えます。
    
4.グローバル人材の育成と採用が海外展開には欠かせない

今までくどくどと述べてきたことで、如何にグローバル人材の存在が大切かをご理解いただけたのではないでしょうか。
逆の言い方をすれば、グローバル人材の育成または採用なしには、海外展開でのビジネスは成功しないといえましょう。

そのグローバル人材に求められる資質とは何かを、図表Uにまとめてみました。

しかし、多くの中小企業ではこのような資質/能力を持った人材がおらず、海外展開をあきらめている経営者も多く見受けられます。
会社の発展には、これからはモノへの投資より人への投資を最優先に考えなければなりません。したがって、自社にこれらの人材がいない場合は、社員を研修させ、国際ビジネスの業務経験を積ませることです。

海外留学、海外視察や海外での業務派遣によるON the JOBトレーニングなどが有効です。海外に飛び出して働きたいと志願する優秀な社員が不思議といるものです。

でも、即戦力のグローバル人材が必要なケースも考えられます。その場合にお薦めしたいのが、@海外インターンシップで研修した学生、A日本の大学で4年間以上生活したことのある外国人留学生、BJICAの青年海外協力隊員経験者、C大手企業で海外経験を長く続けた現役での転職希望者かOB人材、D国内企業で長期に働き、中堅社員に育った外国人などから適任者を採用することです。
このような人材の採用で成功している中小企業が数多く存在するようになってきています。
  
5.外部の支援機関を大いに活用しよう

海外展開を検討される中小企業の皆さんは、ます公的機関の海外展開に関する説明会や相談会に出席することです。このような場で、中小企業の海外展開の多くの事例や問題点を理解できる上に、指導も受けられます。

具体的なプランがあり、どう海外ビジネスを進めて行ったら良いかについて、さらに詳しい説明や指導を受けたい場合は、直接支援機関にアポイントをとって出向くことをお薦めします。
各支援機関の紹介は、このお役立ち情報(コラム)の今年1月掲載の「中小企業が活用できる海外展開支援施策」に詳しく述べられています。

追加補足することとしては、25年度は海外展開に対する国の予算が、昨年度に比べ大幅に増額され、サポートも充実した体制になり、海外展開へのチャレンジがやり易くなったことです。

JICAでは、本年度に運営費交付金20億円の予算で、中小・中堅企業からの製品・技術の途上国政府関係機関への提案型普及・実証事業に対する参加申込みを行っています。人件費、旅費や設備・資機材の購入費等も含め一件で1億円までの補助が得られます。

私がお世話になっているJICA横浜では、今年の7月に2週間の日程で中南米でのビジネスチャンスを見出すため、地域の中堅・中小企業者を対して「中南米民間連携調査団派遣」の応募が行われており、費用はJICAが負担する魅力のあるサポートもあります。

全国商工会連合会では、「中小企業者が共同でグループを形成し、海外進出に取組む際に上限2000万円の補助金を出す」事業の公募を始めました。

各々の地方自治体でも、このような海外展開に対しての支援が増えてきています。

経済産業省では、インターンシップ(若手社会人、学生を対象とした)プログラムを通じて、グローバル人材育成事業の推進を行っており、JETROとHIDA(海外産業人材育成協会)が共同でこの事業を委託し、実施している制度があります。

HIDAは今年の4月に「中小サービス業等の海外現地人材を支援する事業」の補助事業者に選ばれました。関心のある中小企業の方は、HIDAやJETROに問い合わせてください。

金融/保険については、それぞれの金融機関や損保機関へ、また、トラブルに関する法律については、日本商事仲裁協会等の機関に相談され、リスクへの対処の仕方を事前に理解や相談をしておくことも大切です。

ぜひ、国および地方自治体や各関係機関の施策を知り、多くのサポートを受けて、失敗のない海外展開への第一歩を早く踏み出しては如何でしょうか。

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