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2013年4月 身近な経営承継対策 〜「遺言」〜
中小企業診断士 荒川光一
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1.経営承継の先送りは限界か
日本は、WHO(世界保健機構)から、高齢化社会(65歳以上の人口が国民総人口比14%以上)を超え、超高齢化社会(同21%以上)が急速に進展していると、心配されています。
2013年1月28日の樺骰巣fータバンクより公表された統計によると、社長の平均年齢は1990年の54歳から2010年の58.7歳(図表-1)と一貫して上昇しています。社長の年代別構成比についても、60歳以上の割合が1990年の29.8%から2012年の51.8%(図表-2)と大幅に上昇しています。
また、一方では、産業構造の変化や経済の長期低迷の中で、核家族化、個人主義の台頭の進展に伴い、相続のトラブルは、家庭裁判所遺産分割事件(家事調停・審判)の件数統計(図表-3)によると、1990年の9,145から2010年13,597件と、大幅に増加していることが分かります。
この点から、高齢化が進めば進むほど、経営承継に関わるトラブルの増加も予想され、経営承継の先送りの限界が、見え初めているのではないでしょうか。多くの中小企業が、経営承継の準備不足から、争族に至ることは是非避けたいものです。
2.経営承継の先送りより、遺言による足元の固めを
経営承継の先送りの中で、「社長」の死という最悪な幕切れは避けたいものです。そこで、最近の経営承継の現場では、経営承継対策として「遺言」を活用し、一歩踏み込んだ経営承継計画を検討している、企業オーナーが増えています。遺言は、経営承継計画の最後と考えられていますが、人の寿命はわかりません。遺言は、事業関係資産の方針が固まったところで作成し、万一に備え、必要に応じて書き換えていくという考えです。
しかし、2012年4月の経済産業省の公表した「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創設に向けた普及啓発に向けた研究会報告書」(図表-4)によると、遺言を「作成している」と回答した割合は、全体では1.7%、70歳以上では3.8%しかありません。ところが、「いずれ作成するつもりである」と回答した人は、全体では32.6%、70歳以上では41.1%もあります。
実際には遺言を作成している方は、まだまだ少ないようでが、作成するなら早めの作成です。「遺言があってよかった」とうい話を、企業オーナーから聞く機会が増えています。
3.経営承継の「遺言」活用の事例から
そこで、最近の成功事例により、「遺言」が簡単で有効な経営承継対策のとなることをご紹介します。
【事例1】遺言は、小規模企業の経営承継対策として重要です
都心の畳店のAオーナーは、妻と後継者の長男家族と会社員の長女家族との3世帯で、自社ビル(5階建て)に同居し、同ビル1階店舗で営業しています。甲診断士は、Aオーナーから、経営相談と併せて江戸時代から続く畳店の経営承継の相談を受けました。そこで、甲診断士からの提案は、ビルを区分所有化し、1階店舗と事業用資産は長男に、他の4フロアーは妻と長男に各1フロアーずつ、残りの2フロアーを妹に相続させ、金融資産等他の財産は法定相続分とする内容の遺言を作成し、長男への家業の円滑な承継を図るものでした。
商店街の店舗オーナーや、個人経営の事業主にとっても経営承継計画は必須ですが、遺言の作成だけで十分なケースが多々あります。これらの経営形態では、たとえ法人化している場合でも、事業資産の大半がオーナーの個人資産です。
そのため、経営承継は、自社株式の承継ということよりも、店舗や工場等の事業資産の承継が主となります。この場合は、後継者問題も重要ですが、将来の後継者の生活と経営の安定のためには、個人資産の大半を後継者にいかに円滑に引継ぐかがテーマとなります。遺言と共に、家族の公平性を配慮した代償資産の確保、会社存続に対する、後継者以外の相続人との日頃よりのコミュニケーションが大切となります。
【事例2】お家騒動となる自社株の行方(自社株対策に遺言を忘れないでください)
B氏は、自動車販売店兼自動車修理工場X社の60歳の社長です。街の小さな自転車屋を始めに、30年間頑張ってきました。相続人は妻の他に子供3人で、今は、長女夫婦が手伝ってくれています。B社長から、甲診断士に「『商工会の勉強会で、大それた経営承継計画や節税対策より、まずは遺言を書きなさい。』と薦められましたが、経営者にとって遺言は、本当に身近な経営承継対策なのですか。」と、当社の経営相談と併せて経営承継の相談をうけました。甲診断士は、当社の株主名簿と社長の個人資産内容を聞いた結果、経営承継計画より、遺言を優先と考え、コンサルティング・グループの乙行政書士を紹介し、遺言書を作成することから、経営承継を進め始めました。
万一経営者の相続が発生し、相続人が複数で遺言書がなかった場合は、自社株式は他の相続財産と同じように、遺産分割が決まるまでは「共有(準共有)」の状態にあるとされます。なお、会社法においては、株式の共有者が共有株式についての権利行使者1人を決め、会社に通知しなければ、共有株式についての議決権を、行使できないと定められています。
そして、判例では、権利を行使できる者は、共有株主の持分の価格に従い、その過半数で決めるとされております。そのため、後継者を決め、育成をして、経営承継の路線を決めていても、共有者(共同相続人)間で経営者の意向に反する者が、後継者になってしまう場合が生じます。このことから後継者争いが始まり、会社の経営にまで悪影響を及ぼすことになります。争族を防止するために、予め遺言で自社株式を後継者に集中しておくことです。
遺言がなかったため、今まで準備してきた経営承継対策が水の泡となり、お家騒動を大きくし、さらには業績不振企業へと転落していく結末となります。親族問の絆や金融機関等取引先の信頼関係まで失いかねません。
【事例3】経営承継の現場では、後継者に加え親族の生活の安定もポイントです
C氏は、年商30億円の食品商社の67歳の社長です。会社は、長男に承継させる予定で計画を立てています。しかし、妻は既に他界しているため、難病の長女の将来にことを心配しています。会社の経営は安定しており、経営承継についても55歳より計画的に取り組んできています。ところが、C社長の個人的資産のほとんどは、自社株です。そこで、当社の経営承継計画の相談に乗っていた、甲診断士に相談がありました。甲診断士の提案した経営承継計計画の骨子は、C社長の意向と甲診断士紹介した丙弁護士のアドバイスを踏まえ、長女への「任意成年後見制度」、「遺言」および「金庫株」の活用による対応内容でした。
このように、計画的に経営承継を進めてきても、難しい問題が発生するものです。オーナーは、会社一筋で人生を過ごしてきても、最後は家族のことが一番大切と考えています。中小企業のオーナーは、生活も資産も会社そのものです。経営承継を提案する場合は、家族への配慮も重要なポイントです。また、中小企業診断士にとって、成年後見制度や遺言の知識も不可欠なものとなってきています。また、コーディネータとしての中小診断士の力を発揮できる、チャンスも増えているということです。
4.留意点として
今まで、中小企業のオーナーにとって、身近で容易な経営承継対策である、「遺言」の活用方法を案内してきました。しかし、遺言はメリットばかりではありません、遺す方の条件によってはデメリットにもなります。公正証書遺言は、費用や書き換え負担もあります。
遺言書の作成は、他の経営承継対策と併せて経営承継計画の中で考えていくことがベストと考えます。また、遺言書の作成に当たっては、弁護士、司法書士、行政書士の専門家に相談して作成することをお勧めします。
中小企業診断士 荒川光一
メールはarakawaskay21@yahoo.co.jpまで願います。
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