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2013年 2月 「オープンとクローズ・ビジネスモデルの戦い」
中小企業診断士 漢那 宗丈
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イノベーションのリソースを、自社に限らず広く求めるオープンイノベーションが注目されている。このオープン及びクローズは、IT業界から出たと思われる。
携帯端末において、アップルとアンドロイド陣営の間で繰り広げられているのがオープンとクローズのビジネスモデルの戦いである。
一方、オープン戦略とクローズ戦略は、ITに限らずビジネスモデルを考えるうえで、考慮すべき重要なポイントであり汎用性のあるテーマでもある。
1.クローズモデルの始まりはIBMのメインフレーム
バローズなどとの競合に打ち勝ったIBMのメインフレームは、中央演算装置やディスク装置、プリンタ、入出力端末などのハードウェア、オペレーティングシステム(OS)などのソフトウェアを、IBMが1社で提供する典型的なクローズシステムであった。
データファイルの持ち方やデータ処理の方法、ディスク装置の使い方やバックアップの方法など全てのしくみは、膨大な研究開発費を注ぎ込んでIBMが完成させたものであり、ここで完成させた技術の多くが、今なおITシステムの基盤となっている。
このクローズな環境において、ユーザは高い品質の製品を安心して使い、データの互換性を含めた行き渡ったサービスを享受した。但し、独占市場になり価格は高かった。
自由競争を貴ぶ米国政府は、独占的な市場を放置することはなく、各装置間のインターフェイスの開示を求めた。インターフェイスの開示がオープンの必要条件である。デジタル製品では、インターフェイスが開示されると、同等の機能を持つ製品であるプラグ・コンパチブル・マシン (PCM)の開発が可能となり、PCMビジネスが始まった。
一番成功したのが日本製の中央演算装置とディスク装置である。研究開発費が少なく済むリバース・エンジニアリングの手法で開発され、IBM製品との徹底的な接続検証が行われた。接続性を確保するために充分な検証が必要なのがオープン環境の特性である。低価格で高信頼性を実現した製品が市場に受け入れられ、大きな売上と利益を得た。
2.第二ステージはMacとWindowsのパソコンの戦い
マイクロソフトはIBMパソコンのOSに採用されたことでビジネス基盤を築き、一方のアップルはマウスを使ったグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)など、今のパソコンの基礎となる技術を開発し、高品質なパソコンを製品化していた。マイクロソフトもWindowsOSでGUIを採用するなどして対抗した。
アップルがクローズ戦略を取り、ハードもソフトも自社で作り上げて、高機能と高信頼性を実現したのに対し、マイクロソフトはオープン戦略を取った。マイクロソフトのOSとインテルのCPUとの組み合わせを核として、全てのインターフェイスを公開した。それにより多くのパソコン本体、プリンタ、外付け記憶装置などのベンダーの競合が出現し、急激な低価格が実現し市場が拡大した。
Windowsパソコンは、多くのユーザが求めるレベルの機能と性能を備えていたので、価格が競争のファクターになり、大きなシェアを占めるに至った。それに伴い、多くのアプリケーションソフトも市場に提供され、シェア拡大を加速した。
これに対しMacは、独特のデザインや、部品の特性を揃えられるクローズな製品の特性を生かして発色をコントロールし、装置毎に色のバラツキがないことがデザイン関係者から支持された。このように一部のファンに支持される製品となっている。
但し、事業として見ると別の側面がある。マイクロソフトやインテルは確実な利益を上げているが、薄利多売のパソコンベンダーは安定的な利益を上げるのが難しい状況にある。これに対しアップルは、パソコンでも充分な収益を上げていると思われる。
3.メインフレームからクライアントサーバ・システムへ
オープン環境での技術進歩は、UNIX、Windowsサーバとローカルエリアネットワーク(LAN)によるクライアントサーバ・システムを誕生させる。当初、メインフレームに対し性能や信頼性で大きく劣ったので、メールや部門内のデータ共有などから使われ始めた。
システム内に色々なベンダーの機器が併存するので、システム全体を誰が保証するか問題になる。しかし、これを考えても、オープンはコスト面で優位なのである。
やがてオープン環境での激しい競合は技術開発競争を生み、性能や信頼性を向上させ、徐々にメインフレームの市場を奪っていった。そして、多くのエンジニアがボランティアで開発に参加したオープンなOSであるLinuxが登場し、インターネットと巨大なデータセンタで構成されるクラウドがシステム構築の主流となりつつある。
但し、メインフレームはなくなっていない。IBMは研究開発費を増やしているとも言われており、恐らく確実な収益を得ているはずである。ユーザが膨大なソフト資産を抱え、コンピュータシステムの移行が容易でないことに加え、信頼性やセキュリティなどでメインフレームは捨て難いのだと思う。
世の中にない新しい製品は、大体がクローズな製品として現れる。ひとつの製品ベンダーの指揮下で開発しないと、新しい製品はまとめられないのは技術的必然である。この製品が市場に受け入れられると、大きなシェアと利益を手にすることができる。
しかし、技術の成熟などにより環境が整うと、オープンから挑戦を受ける。オープン環境でのもの作りでも、一般ユーザを満足させることができるような状況になると、中核市場では機能・性能・信頼性での差別化は難しくなり、価格が最重要となる。
DELLが独自のオーダーシステムや革新的なサプライチェーンにより低価格を実現したような、新しいビジネスモデルの戦いとなる。戦略的な設備投資や世界展開戦略、各国の好みに合わせたデザイン戦略などが重要となり、それが不得手な日本ベンダーは、国内だけのニッチなビジネスになっている。
一方、オープン環境のもの作りでは、LSIやハードディスク、ディスプレイなど部品レベルのオープン化 (汎用品化)が起き、多くの製品ベンダーが同じ部品を使うようになる。そして、部品ベンダーの寡占化が起こる。オープン環境で利益を上げられるのは、マイクロソフトやインテルのように根幹部分を押さえている企業と、独占的なシェアを持つ部品ベンダーである。そして、部品を買い集めると簡単に製品ができるので、製品ベンダーでは勝てるビジネスモデルを構築した一部の企業のみが勝者となる。
【 改めてオープンを定義 】
・必要条件:全てのインターフェイスが公開されている。
・十分条件:公開されたインターフェイスによる接続が検証されている。
Windowsパソコンのように大きなシェアを持つと、プリンタなどのベンダーが接続を検証し保証して製品を出すので、ユーザは好きな製品を選んで使うことができる。また、色々なソフトベンダーが多くのアプリケーションソフトを製品化されるのも、大きなメリットである。
4.今日のホットな争いは、携帯端末におけるアップルとアンドロイド陣営の戦い
アップルは、パソコンと同様にクローズ戦略である。OSも公開していないし、アプリケーションをダウンロードするサイトもアップルが運営し許可制にするなど、内容もコントロールしている。これにより、ウイルスに強い環境と洗練され高機能・高性能な製品、快適に動作するアプリケーションを提供している。そして、ダウンロードサイトをアップルが運営し、そこから収益を得る新しいビジネスモデルの構築に成功した。
これに対して、グーグルがアンドロイドと言う携帯端末用OSを開発・無償提供し、サムソンなどの多くのベンダーがこれを使った製品を展開している。これはオープンなビジネスモデルであり、すでに台数シェアでは、アップルを引き離している。
今後を予想する。アンドロイドなどのオープンなOSを使った製品が、大きなシェアを占めるのは間違いない。しかし、パソコンに比べプリンタなどの周辺機器が限られるので、アップルのシェアはパソコンほど小さくはならないと思う。加えて、コンテンツ配信での収益といった新しいビジネスモデルを構築したので、アップルの高収益は続くと思われる。そして、これが力を失うとすれば、コンテンツ配信のクローズ性がネックになり、アプリケーション・ソフトの品揃えや内容で劣勢となったときと考えている。
5.IT以外の製品へ考え方を広げる:なぜ日本勢は液晶テレビで敗れたか
ブラウン管テレビで世界を制した日本のメーカは、液晶テレビも世界に先駆けて製品化した。しかし、気が付くと韓国勢に大きなシェアを奪われている。一番大きな要因は、液晶テレビはデジタル製品というところにある。パソコンと同様に、デジタル製品では部品が汎用化する。テレビのベンダーは、部品を買い集めて製品を作ることができる。即ち、部品レベルでのオープン化が進み、性能・機能での差別化が難しくなってしまった。
価格で勝負するなら、戦略的設備投資や世界展開するための販売戦略を、きっちりと立てる必要がある。価格以外の差別化戦略では、国によって違う感性に訴えるデザイン戦略などがあるが、それには強力なマーケティング力が必要となる。どちらも日本の経営者に充分に備わってなかった結果と考えられる。
一方自動車は、エンジン周りなど摺合せの技術が重要であり、部品点数も膨大などから、部品レベルのオープン化の状況にはない。しかし、電気自動車になると、部品点数が大幅に減り、エンジンもないのでオープン化が進む可能性がある。自動車メーカの経営者に戦略がなければ、テレビの二の舞を踏む事となる。
6.考え方を販売にも広げる:なぜ日本の総合家電メーカは苦しんでいるか
日本の高度成長に伴って、家電市場は大きく成長した。その時の販売チャネルは、家電メーカ毎の販売チェーン店であった。近所で買い物をした当時の状況と、製品が壊れ易いく頻繁な修理が必要だったなどから、クローズな販売チャネルは必然であった。販売チャネルを維持するために、テレビ・洗濯機・冷蔵庫などの主要製品は、全て自社で提供した。このクローズなビジネスモデルは大成功を収め、大きな利益を得た。
しかし、オープンな販売チャネルである家電量販店の出現で、このビジネスモデルは終息を迎える。販売チェーン店は大きな負の遺産となり、その処理に膨大な手間とコストを掛けることになった。また、販売チャネルが大きく変わったのに、主要製品は全て自社で提供する方針も見直されず、収益を大きく悪化させて行った。
もし経営者が、「クローズ戦略は、必ずオープン戦略の挑戦を受け、主流を明け渡す」との世界観を持っていたなら、販売チャネルの変革に早く気が付けたはずである。それに対応して、早めに販売チェーン店の整理に着手し、製品を得意なものに絞り込むなどの手を打っていたら、今日の家電業界の苦境はなかったと思う。
このように、クローズとオープンのビジネスモデルの戦いは、IT以外でも現れるものであり、企業のビジネスモデルを考える際に、強く留意すべきものである。
新しい技術を用いた製品の創生期に於いては、必然的にクローズ戦略になるし、その市場がニッチなら、そこに安住もできる。しかし、その市場が拡大すると、必ずオープン戦略の挑戦を受ける。オープンな環境は激しい競合の世界であり、どこで勝負するかの企業戦略が重要となる。オープンとクローズどちらの戦略を取るにしても、その特性を充分に把握し、市場の流れや変化に対応して、戦略を決めて行く必要がある。
中小企業診断士 漢那 宗丈
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