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2013年1月「中小企業が活用できる海外展開支援施策」
中小企業診断士:櫻田 登紀子
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2010年頃から、日本の高い技術や美味しく安全な食品等が切望され、輸出を検討する中小企業が増えてきたと感じています。2011年には、『中小企業海外展開大綱』が策定され、経済産業省、外務省、政府関係団体、中小企業団体、金融機関などから、次々と新しい支援施策が打ち出されました。
これらの支援機関を取材してみると、そこは中小企業の海外展開にとってお宝の山がありました。
本稿では、各支援機関による海外展開支援策をフェーズ別にご紹介します。
1.企画フェーズ
このフェーズで重要なことは、自社の強み、現地ニーズ、進出先の国・地域・都市の現状、法制度・規制・慣習、等の確認でしょう。どのような目的とビジョンで海外進出するのかという“経営者の思い”も重要だと考えます。
ここでは、海外の情報入手や相談を受けることができる日本貿易振興機構(JETRO ジェトロ)「貿易投資相談」がお薦めです。電話またはオンラインで相談の申し込みができ、担当の職員やアドバイザーが対応してくれます。
国ごとの輸出入に関する手続きや法規制等についてアドバイスを受けられ、相談料は無料です。輸出品が「輸出有望案件支援サービス」の対象であれば、各分野の専門家に、マーケット・バイヤーについての情報収集や、海外見本市の随行、商談の立ち合いから契約締結までをサポートしてもらうことができます。
この支援策は、輸出する商品が「魅力ある日本ブランド」であると認められることが前提で、対象製品は機械・部品、環境・エネルギー、農林水産・食品、デザイン製品・伝統産品、日用品、ファッション(アパレル・テキスタイル)です。審査が必要ですが中小企業限定のサービスであるとが特徴です。
「貿易投資相談」問合せ先:
JETRO ビジネス情報サービス部ビジネス情報サービス課 TEL 03-3582-5651(相談受付専用)
2.調査フェーズ
ここでは、先述したJETROのサービスを利用することも一つですが、中小企業にとってより身近な相談相手として東京商工会議所の「中小企業国際展開アドバイザー制度」もあります。
この制度は、中小企業の海外展開に豊富な実績を持つ法人企業・団体が200社ほど登録されており、国内準備から、海外市場開拓、 海外拠点設立、進出後のトラブル対応まで、きめ細かいフルサポートが準備されています。
他の支援機関の無料相談ではカバーしきれない企業の個別・具体的な相談に対して、有償で対応しています(初回相談は無料)。費用は相談内容に応じて相対で調整するとのこと。
対応の可否やアドバイザーとの相性を確認しベストパートナーを選択してほしいと思います。
本格的な取組前のアーリーステージの相談に対しては「海外展開支援相談窓口」を別途設けています。こちらは無料にて相談対応を行っています。東京商工会議所では2010年度から他の支援機関との連携を深めているとのことです。
後述するF/S支援では、中小企業基盤整備機構や独立行政法人国際協力機構と連携し、案件の内容に適した支援策を紹介しています。
また、現地を実際に目で見て、情報を足で稼ぐためには「現地事情視察会」がお薦めです。
ツアーは年8回程度開催され、現地の商工会と連携しているほか、日系企業や現地アドバイザー企業との夕食会が用意されます。
これらのネットワークは海外進出後も頼りになるでしょう。また、展示会出展をしなくても、海外の展示会を見るだけで市場調査になる上、商談に結びつくケースもあると聞きます。
「海外展開支援窓口」問合せ先:
東京商工会議所 中小企業部中小企業国際展開アドバイザー係 TEL 03-3283-7885
3.ビジネスモデル開発・ビジネスプラン策定フェーズ
ビジネスモデル開発フェーズでは、進出先の投資環境・市場環境調査、政治・歴史の理解、商品・サービスの特徴、ターゲット顧客・事業範囲の特定、現地パートナーの有無、等が重要です。
ビジネスプラン策定フェーズでは、経営戦略・ビジョン・事業目的の明確化、進出先の投資環境・市場環境分析、事業の目標(売上・利益・シェア)、事業展開のシナリオ、事業実施体制の確立、資金計画、リスク分析、具体的なアクションプラン、等がポイントです。
海外進出前に、企業はF/S(フィージビリティ・スタディ)に多くの時間と費用をかけなければなりません。中小企業にとっては人的にも資金的にも大きな負担ですが、このフェーズにおける嬉しい施策が誕生したので紹介します。
1つ目は、中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)による「F/S支援」です。
海外展開に向けた国内での事前準備、海外での現地調査、調査実施後のフォローといった内容について、中小企業診断士を含む海外展開支援専門家による手厚いハンズオン支援が受けられます。
渡航費等のF/Sについて、上限を350万円として(実費の2/3まで)中小機構から経費の支援も行われます。全国から多数の応募があり、2012年度は100を超える企業が採択されました。従業員数50〜100人規模の企業が最多で、次が20〜50人規模であるとのことからも、海外進出の機運が中堅以下の規模の企業にも広がっていることがわかります。
中小機構ではこのほかに、「国際化支援アドバイス」(無料)、「海外展開セミナー」「海外展開管理者・実務者研修」等の豊富なメニューを取りそろえ、海外展開の入口から出口までを支えます。
「国際化事業支援」問合せ先:
中小機構 海外展開支援課 TEL 03-5470-1522
2つ目は、独立行政法人国際協力機構(JICA ジャイカ)による「協力準備調査(BOPビジネス連携促進)」および「中小企業連携促進調査(F/S支援)です。
前者は、貧困層(BOP層)が抱える社会的・経済的な問題解決に資するBOPビジネスのF/S調査支援制度で、中小企業の場合は調査委託費として上限5千万円(または上限2千万円とすることが選択可能)をJICAが負担するものです。2011年度からスタートし、52件が採択され、うち24件が中小企業です。
後者は、2011年度に日本商工会議所・東京商工会議所との連携で試行されました。開発途上国の社会経済開発に裨益効果のある分野で、かつ直接進出であることが対象です。
調査委託費として上限1千万円をJICAが負担します。中小企業は東京商工会議所の「中小企業国際展開アドバイザー制度」を利用することが可能で、コンサルタントと連携した密度の濃いF/Sを実施できる点が特徴です。2011年度は11社の中小企業が採択されました。他に、技術研修やオープンセミナー等も開催しています。
民間連携事業お問合せ先:
JICA 民間連携室 TEL 03-5226-6960
3つ目は、外務省によるODAを活用した委託事業があります。
2012年度にスタートした3つの事業は以下の通りです。
@ 「ニーズ調査」は中小企業等の製品・技術等が途上国で活用できるかを調査する事業です。開発コンサルタントや商社などからの提案が基本ですが、上限5千万円までが調査委託費として認められます。
A 「案件化調査」は、中小企業等からの提案に基づき、ODA事業へ展開するための事業計画立案支援制度で、@と同様に調査委託により上限は3千万円。人件費やコンサルタント経費まで認められる点が特徴です。
B 「途上国政府への普及事業」は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等の途上国政府関係機関における試用・導入のきっかけを作る事業で、営業用の試作品を運搬する費用まで認められるものです。調査委託による上限は5千万円です。
AとBは、中小企業とコンサルタントなどによる共同提案が基本で、2012年度の採択予定件数は、それぞれ@が8件、Aが32件、Bが10件です。
「外務省相談窓口」問合せ先:
外務省 国際協力局ODA中小企業支援タスクフォース 03-5501-8000(内線2585・3095)
4.事業実施・運営フェーズ
事業実施・運営フェーズでは、現地法人設立、工場建設、原材料手配、人材採用、販売先の確保、生産・販売管理、品質管理、労務管理、商品やサービスのローカライゼーション(地域対応)、日本企業としての優位性発揮、現地パートナーや顧客との信頼関係構築、等がポイントで、運営フェーズでは、現地社員の教育・育成、社内のグローバル人材育成、資金調達、税制・法制度の変更への対応、紛争の解決、価値観の違いの理解、等が課題です。
海外進出後も様々な難題が襲いかかります。これらのフェーズで中小企業の経営者は、各方面からのサポートを必要とするでしょう。
このフェーズで必要な施策の一つは資金面でしょう。
政府系金融機関をはじめとして民間の金融機関も海外展開サポートを強化しています。
ここでは日本政策金融公庫の「海外展開資金」を紹介します。
日本政策金融公庫は、中小企業だけでなく小規模企業向けの融資を扱っていることが特徴です。2012年4月、全支店に「海外展開サポートデスク」を設置したところ、11月末現在の融資利用社数は642社(うち小規模企業339社)に上ります。
小規模企業向けに融資した339社の特徴として、業種別では卸売・小売が51%と半数を占め、製造27%、サービス16%と続きます。従業者数4人以下の企業が52%であり、小規模企業も海外進出に挑戦し始めていることを物語っています。
当庫では融資だけでなく、これまで紹介してきた各専門機関を紹介したり、セミナーを共催しています。
他に、JETROとは同10月に、当庫の取引先へのJETROの情報提供やアドバイザーが対応すること等で連携を強めることで覚書を締結しました。
また、日本弁護士連合会との連携による「日弁連中小企業海外展開支援弁護士紹介制度」では、国際派弁護士が、進出前または進出後の法律相談に30分毎10,500円(最初の30分間は無料)という料金設定で相談にのってもらうことができます。ベトナム企業開発庁との覚書を締結する等、海外進出後のサポート体制の充実も進めています。
「海外展開資金」問合せ先:
日本政策金融公庫 事業資金相談ダイヤル 0120-154-505
最後に、社内のグローバル人材育成支援として、JICAの「民間連携ボランティア制度」を紹介します。
これは、JICAの看板事業の一つである「青年海外協力隊」を、中小企業を含む企業向けの人材育成の機会として打ち出した制度として話題になりました。「青年海外協力隊」から帰国した人への求人が近年に倍増したことや、海外進出を予定または進出済みの企業からの「語学力だけでなく、異国の文化・習慣・常識の違いを理解しコミュニケーションできる人材を育成したい」という要望を受けて制度化されました。
従来の制度と比較し、受入国・要請内容・職種を企業のニーズに合わせる(オーダーメイド)、給与・賞与・社会保険料・退職金引当金の補助があること等が特徴です。2012年度にスタートし、セミナー・説明会に1000社以上の参加がありました。このうち80社と交渉中で、うち10社が合意書まで進んでいます。
「青年海外協力隊」お問合せ先:
JICA青年海外協力隊事務局 TEL 03-5226-9805
各支援機関の取材を終え、中小企業にこれだけ沢山の味方がついているということをあらためて実感しました。支援機関が様々な角度から海外展開を支援している今こそ、中小企業は新しい一歩を踏み出してほしいと願っています。(月刊「企業診断」2013年2月号特集「開拓者に学ぶ中小企業のグローバル経営」(同友館)を改編)
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中小企業診断士:櫻田 登紀子
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