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2012年12月 「自分のお店(会社)の良さを見直そう」
中小企業診断士 原 千津
メールは
harachy@gmail.comまで願います。
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ある居酒屋の女将さんから相談を受けた。
「10年近くお店を一人でやってきたけれど、最近売上が落ちてしまって、閉店を考えるようになった。けれどもお店を続けたいのでアドバイスをしてくれないか」と。
相談を受けた女将さんは、前の女将さんから店を引き継ぐ形で事業を始め、近隣の住宅地の住民を顧客として10年近くやってきたが、不景気と顧客の高齢化に伴い、今年の後半から売り上げが一気に下がって来て、最近では売り上げがゼロの日もあるのだという。
友人を介して知り合った私よりも若い女将さんとは、二年ほどの付き合いだが、こういった相談を受けて、お店に伺うのは今回初めてだった。
そのお店は、JRと京急線の二路線利用可能な駅から、徒歩10分程度の、公営団地の入り口にある雑居ビルの1階にあった。売上不振の話通り、祝日の夜21時頃にも関わらず、お客は一人もいなかった。ここ数日このような状態だという。
女将さんの明るく人懐こい人柄から、居酒屋よりもスナックの様な店をイメージしていたが、一言でお店の特徴を表現するのは非常に難しかった。
【現状】
●外観
“カラオケ1曲100円、ビール・焼酎の価格表”の張り紙と、店名がはいった緑色のビ
ニールのファサード。店頭に掲示スペースはあるが、無関係なポスターが貼られており、
実質使用されていない。
●店内
カウンター5席と、小上がり2卓の小料理屋風の席割り。店の奥は不用品の物置になっ
ているのが、客席から見える。壁には、海外リゾート地の写真が飾ってある。メニュー
表記は、常連客が進んで手書きしてくれた縦書きの味わいのある書体だが黄ばんでいる。
●メニュー
飲み物は5種類程度で、生ビールの表記はあるが冬季は提供していない。料理は15種類
程度あるが、全て手作りで、新作を作るほどの気合があり、量が多く、味は良い。ただ
し、一人客が多く、高齢のため、料理の注文はあまりない。
●サービス
洋服にエプロン姿の女将さんが一人で接客。カラオケは1曲100円。
良かれと思ってやっていろいろやっているが、お店のコンセプトがないため、まとまりが無くなっている状態である。実際、女将さんに「お店を一言でアピールするなら?」と、尋ねても答えに詰まり困り果てている。それでも、あえてお店を表現するならば、「カラオケスナック風小料理屋」といった感じだろうか。
主な顧客は、近隣の住民だが、高齢化に伴い、来店頻度、客数、単価、いずれも下がっているが、新規の顧客獲得のために何もしていない。それでも、女将さんは、今の顧客が居る限り店を続けたいのだというが、売上ゼロの日を無くして再び軌道に乗せるのは、お金も気力も必要である。かけるお金がないなら、お客が少ない今こそ、その時間はたっぷりある。
労力を厭うことなく、費やすことができるかどうか、アドバイスをする前に女将さんにその覚悟を確認した上で、お店の良さを整理して、コンセプトをまとめ、それに沿って、店づくりをアドバイスした。
【カラオケのできる料理の美味しい小料理屋へのアドバイス】
●外観
使用されていない店頭の掲示スペースに、常連客による手書きの飲み物・食事メニュー
とカラオケ無料の表記。
●店内
海外の写真から、日本画の写真もしくはカレンダーを飾る。メニュー表記は、常連客に
よる冬用メニューに書換える。店奥の物置の不要品は捨てて、奥行きを出す。
●メニュー
料理は、高齢者用に、量を減らして、一口サイズにして、単価を落とす。一人客が多い
ので、セットメニューを考案する。
●サービス
持っている和服を着用し、食材の仕入、店頭の掃除、接客を和装で行い、カラオケは無
料サービスにする。
アドバイスを見た女将さんは、「今まで何もやっていなかったのだから、これでお客が増えるはずだ」と、夜11時を回っているにも関わらず、さっそく店頭の不要なポスターを剥がして、アドバイスを行動に移し始めた。明日は、常連客にメニュー書きを頼みに行き、実家にある着物を取りにいくのだと言って、私を見送ってくれた。
10日後に連絡してみると、電話から弾むような女将さんの声がした。様子を聞くと、行動の効果は徐々に表れて、今ではお客が全く来ない日は無くなったという。御礼を連呼する電話口に、再訪問を約束して電話を切った。
私がしたことは、本人の気付かないお店の良さを整理して、全体を一つにまとめ、本人のやる気を、実際の行動計画にしただけである。
現状を分析するSWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析は、事業の課題を見つける基本だか、自分自身で行うのはなかなか難しい。特に売上が不振の時は、自社の弱みや外部の脅威に目が行きがちであるが、事業領域をとらえ直し、客観的に分析することで、必ず会社の強みとそれを活かすチャンスはあるものだ。
私達、中小企業診断士がそのお手伝いをし、事業主の笑顔を見ることができれば、何よりである。
中小企業診断士 原 千津
メールは
harachy@gmail.comまで願います。
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