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2012年 8月 生産性を高めるためには
中小企業診断士 永井謙一
メールはkenn.nagai@gmail.comまで願います。
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私たちは毎日、仕事をしていますが、努力が成果につながらなかったり、解決の糸口が見当たらなかったりしたことはないでしょうか。特に人を管理する場合には、仕事の要素を分けて考えることで、適切な改善策を立てることができたり、さらには成果につなげることができたりします。
今回は、生産性を高めるためのツール「人時生産性」について触れるとともに、人材を活かして生産性を高めるための方策について述べたいと思います。
1.人時生産性とは
人事生産性とは、「ある一定期間における労働時間1時間当たりでどれだけ粗利益を稼ぎ出したか」をはかる指標です。計算式で示すと、下記のようになります。
人時生産性=粗利益高÷総労働時間(1人時)
要するに、1人1時間当たりの粗利益高を高めることが生産性の向上に寄与することを示しています。
では、この人事生産性の要素をもう少し細かく見てみましょう。人時生産性の計算式を展開すると、下記のようになります。
人時生産性=粗利益高÷売上高×売場面積÷総労働時間×在庫高÷売り場面積×売上高÷在庫高
さらに、上記式の下線部分をまとめると、下記のようになります。
人時生産性=粗利益率×1人1時間当たり守備範囲×坪当たり在庫高×商品回転率
この式から、人時生産性を高めるためには、@粗利益率、A1人1時間当たり守備範囲、B坪当たり在庫高、C商品回転率の4点について改善を図ることが有効であると言えます。
2.人時生産性を高めるためには
では、人時生産性を高めるために必要な対策を考えてみましょう。
@粗利益率を高めるためには
売価変更、在庫ロスの削減、仕入原価削減などを行う必要があります。
A1人1時間当たり守備範囲を広げるためには
仕事の計画と作業割当て、仕事の改善や合理化を図る必要があります。
B坪当たり在庫高を適正にするためには、
売場の在庫からデッドストックを排除し、売れる商品で適正在庫を維持する必要がありま
す。
C商品回転率を高めるためには
商品販売データを分析するなどして売れ筋商品を把握するとともに、品切れを起こさないよ
うに仕入体制を整える必要があります。
上記の4つのポイントに注視し、自社が改善すべき点を明確にし、対策を講じることが有効となります。
上記の@〜Cの中で、Aは人に関する要素であることがわかります。
今回は、この人に関する部分について注目してみましょう。
3.労働環境の変化
総務省統計局「労働力調査」をもとに、日本国内の労働力の変化について述べたいと思います。
平成23年の正規従業員数は3185万人、非正規従業員数は1773万人、となっています。一方平成17年はそれぞれ、3374万人、1633万人となっています。このことから、正規従業員は減少し、非正規従業員は増加するという傾向が見られます。
この傾向の大きな要因は、人件費の変動費化であると考えられます。
非正規従業員の割合を業種別にみると、「飲食業・宿泊業」(69.5%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(57.8%)、「卸売・小売業」(46%)となっており、これらの業種において非正規従業員の割合が高くなっています。
また、非正規従業員の男女比をみると、女性の割合が約70%となっています。
女性の年齢別労働力率においては、20代から30代にかけて労働力率が低下するM字カーブが見られましたが、2011年調査では、その低下傾向が小さくなっており、この年代の女性の労働力率が高まっていることがわかります。(下記グラフ参照)
※総務省労働力調査より作成(1997年と2011年を比較すると、25〜29歳で68.2%から77.2%に上昇、30〜34歳では56.2%から67.6%に増加しています。)
これらを踏まえて考えると、「飲食業・宿泊業」、「サービス業」、「卸売・小売業」を中心として、管理者には、特にパート従業員の能力開発や動機づけなどを行うことにより、生産性を高めることが重要と考えられます。
4.パート従業員の活かし方
パート従業員の能力開発や動機づけなどに関する企業の取り組み例をみてみましょう。
飲食チェーンA社では、全店の店長をパートに切り替える方針を打ち出しています。そのために、社内教育制度を立ち上げ従業員の能力開発を行っています。
パート店長になるためには、従来から実施されている基礎講習(製麺、天ぷら、サービス、衛生管理、労務管理等)に加え、時間帯責任者候補セミナー(緊急対応、トレーナー教育等)と店長候補セミナー(経営理念、法令順守、面接採用、雇用契約等)という2つのセミナーを受講する必要があります。(講習時間は約100時間)
当制度の狙いは、「社員並みの実力を持つ主婦パートの能力の活用」にあります。主婦パートには、顔見知りの近隣住民が多いため、常連客を獲得しやすく、さらに地域の行事に合わせた販促計画づくりも行うことができます。同社では、この教育制度により従業員の能力向上やモチベーション向上を図っています。また従来の社員店長はエリアマネージャーとしてパート店長の管理を担当させ、同時に組織力の強化を図っています。
飲食店B社では、新人スタッフ研修で、教える側もスタッフ(アルバイト、パート)が担当しています。教える側は、指導者というよりスタッフの目線で接するため、新人スタッフとの一体感も高めやすい。この制度の根底には「怒るより褒めて育てる」という考えがあります。
褒めて育てられると自らも他人の良い点を褒めるようになり、企業としては接客にプラスの効果があるそうです。
飲食チェーンC社では、「スタッフ副店長」制度を導入しています。
スタッフ副店長制度は、店長業務の一部を担当するものの、店舗運営の最終責任は持たないところにポイントがあります。従来、同社のスタッフは技能に応じて職位が上がり、最終的には店長になれるという昇格の仕組みがありましたが、店長になると長時間勤務や責任が重くなるため、実際に店長への昇格前に退職するスタッフも少なくなかったようです。
スタッフ副店長制度は、このようなパート従業員の心理を考慮して設けられた職位です。スタッフ副店長の中には、「副店長として管理業務を経験することで、将来店長になることに対する不安が薄れている」と感じている人も多いようです。実際に当制度を導入後、退職率が低下し、定着率の向上に寄与しているそうです。
これらの企業の取り組みのように、パート従業員の活用においては、各従業員の仕事に対する考え方を尊重した制度設計やモチベーション向上につながる方策が有効であると考えられます。
このように、各従業員のモチベーションの向上を図りながら、一人当たりの守備範囲を広げていくことによって、人時生産性を高める取組みが重要ではないでしょうか。
以上、人に関する取組に焦点をあてて、人時生産性を高めることについて述べてきました。
少しでも皆様の事業活動の成果向上のヒントになれば幸いです。
中小企業診断士 永井謙一
メールはkenn.nagai@gmail.comまで願います。
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