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2012年1月 「消費税増税のもう一つの側面」
中小企業診断士 入谷 和彦
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消費税の議論をする国会が始まりました。しかし与野党内で反対する声も強く、またいずれは上げなくてはならないが政府のやり方は気に食わないとか、どうやら解散に持ち込むのが目的になってしまっているようです。
政府支出の削減については、公務員給与削減や国会議員定数の削減が挙げられていますが、これも各自の既得権に固執していて、まとまる見込みはありません。政府・与党についても、社会保障と税制の一体改革といっていますが、少し前には八ッ場ダムの建設再開や、整備新幹線の着工を決めていて、財政再建に真剣に取り組んでいるというようには受け止められません。
中小商業者は消費税によって売上が下がるので、反対する声も強くなっていますが、国民一般の意識は、いずれ消費税をあげるのはしかたないが、その前に政府支出の無駄を省くべきだ、という辺りはないでしょうか。
しかし、私は、ある一点にのみ着目して、早めに消費税増税が決まった方がいいのではないかと考えています。その一点とは、日本国債の暴落を懸念していることです。
ご案内のように、ヨーロッパでは財政危機が起きています。ギリシャ等では、国債の残高(政府の借金)が膨らんでいるのに、財政改善の見込みがないということで、資金を引き上げるようとする人が増え、政府の新たな国債発行に資金を出す人が少なくなり、国債の金利が上がり、国債の時価が下がっています。
国債残高ということでは、よくGDPに対する比率が持ち出されます。直接の関係は無いのですが、その国に経済規模に対する政府の借金額という比率で、一つの目安になっています。これを見ると、ギリシャで160%、イタリアでも120%、しかし日本は200%を超えています。震災の復興予算がありましたが、日本の財政状態が好転する見込みもありません。では、なぜ、日本の国債が暴落しないのでしょうか。
理由はおよそ3点ほど挙げられています。
@日本国債の保有者は92%が国内であること。
A消費税率が5%で、ヨーロッパの20%に比べるとまだまだ低いこと。
B日本の国際収支が黒字であること。
@については、海外の保有比率が多いと、債務不安が起きると一斉に資金引き上げ方向に走りますが、日本国債は海外保有が少ないので、それが起きにくいということです。海外保有比率はギリシャでは70%近く、イタリアでは40%以上です。但し、ヨーロッパの債務不安のために徐々に資金が日本国債に流れ込んでおり、これまで海外保有比率がほぼ5%で推移していたのが、昨年の暮れには8%を超えて、増えつつあります。
Aについては、消費税の引き上げ余地が高いから、財政改善の余地があるという意味です。
Bについては、政府は膨大な債務を抱えていても、国の経済は黒字なので、補てんする余地があると考えられているためです。昨年の貿易収支は赤字になりましたが、所得収支(海外投資のリターン等)の黒字のおかげで、日本の国際収支はまだ黒字になっています。
貿易収支の赤字については、昨年は震災等の影響もありました。しかし、製造業の海外移転等で、ここ数年貿易収支の黒字はどんどん少なくなっていて、昨年の赤字が大きく改善する見込みはありません。所得収支も、世界的な低金利等の影響で、投資残高に対する収益率は低減しています。このため数年以内に日本の国際収支全体が赤字になる(貿易収支の赤字が所得収支の黒字を上回ってしまう)可能性も取りざたされています。
赤字になってしまうと、国内のお金が減っていくわけですから、国内での国債の消化能力が低くなり、海外からの資金が必要になってしまいます。
一方で、日本国債が危ないという声は、ちらほら出始めています。格付会社は、日本国債の格付けを2度に渡って下げて、今や中国と同じ、つまり日本国債の信用度が下がっていると言っています。IMFは、勧告ではないですが、日本が財政再建を行わないと、大変なことになるというレポートを発表しています。
現在の国際金融のやっかいなところは、ヘッジファンド等の資金が大きなボリュームを持っていて、この資金は、実際にはまだ余裕があっても、ちょっと不安があると一斉に資金を引き上げてしまう行動に出るため、ちょっとした不安が短期間で現実化してしまう点です。現在の状況は、上記の@とBが悪化する可能性が問題視されると、いつ日本国債の信用不安が起きてもおかしくないような状況で、ヨーロッパの問題が収束したら、次に危ないのは日本ということになる可能性もあります。せめてAの消費税増税を決めて、財政再建に取り組む姿勢を国際的に示さないと、国債の暴落を防ぐことはできませんが、今の政治の状況では期待することはできません。
では、日本国債の信用不安が起きたら、何が起きるでしょうか。
まず、日本国債が暴落しても、デホルト(債務不履行)まではいかないでしょう。しかし、国債の時価が下がるので金利が高くなります。金融引き締めと同じ様な状況です。円は下がるので、輸出企業にとっては良くても、物価が上がります。また日本国債を保有している銀行や生命保険会社は、時価評価をしなくてはならないので、大きな評価損を計上しなくてはなりません。
実は、銀行も生命保険会社も、既に国債暴落は織り込み済みで、ある程度のリスク管理は行っていますから、破綻することは少ないでしょう。しかし、銀行では、評価損によって自己資本が毀損するとBIS基準に影響しますから、別の方法で収益確保を図ります。ここで起きるのは貸しはがしや貸し渋りです。信用金庫や信用組合は、国債の保有が少なくBIS基準も関係無いので、貸しはがしや貸し渋りはしないでしょう。しかし、銀行の引き締めによって、世の中に出回る資金が減ってしまいます。
現在の低金利で、変動金利で契約している住宅ローンは、返済額がかなり増えてしまい、家計から消費に回る資金は大きく減ってしまいます。
政府は、国際的な圧力で、はっきりした財政再建策を行わなくてはならず、社会保障分野も含めて、大きな支出削減を行うことになります。
つまり、金利が上がって、資金が少なくなり、物価が上がって、家計の消費支出は減り、政府支出も削減され、経済全体が収縮してしまいます。日本経済はバブル倒壊と同じ、あるいはそれ以上の大不況のどん底になってしまいます。その影響は、消費税が10%になる程度の比ではありません。物価が上がってデフレが解消するといった悠長な問題でもありません。
おおかたの予想では、今年いっぱいは国債暴落は起きないと言われています。しかし、金融機関の関係者の中には、例え政権が代わっても政府は有効な財政再建策を出せないので、3年以内に起きる可能性は80%と言っている人もいます。
各企業様におかれましては、有効な対策はなかなか難しいですが、BIS基準に関係ない金融機関との関係を深める、資産をリストラして自己資本を厚くしておく、といったことは行われてもいいかと思われます。しかし、いつ来るかわからないことを前提にして、消極的な経営姿勢をとるのは、これもまた問題です。月並みではありますが、会社を筋肉質にし、目の前の経営は積極的に行う、ということが必要かと思われます。 以 上
中小企業診断士 入谷 和彦
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