特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2011年10月「後継者の選定について思うこと(営業部長か経理部長か)」

●2011年10月「後継者の選定について思うこと(営業部長か経理部長か)」

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2011年10月 「後継者の選定について思うこと(営業部長か経理部長か)」

中小企業診断士 佐々木 文安

メールはfumiyasusasaki@yahoo.co.jpまで願います。



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経営コンサルタントして「事業承継支援」を専門分野の一つとしていることから、これに関するさまざまな相談を受けています。

特に多いのが後継者に関する相談ですが、これまでこのコラム欄で「長男か三男か」「子息か従業員か」というテーマで実際にあった相談と助言事例を紹介させていただきました。今回は、「営業部長か経理部長か」という相談と助言事例について紹介させていただきます。

会社は売上高10億円・従業員50人ほどの製造業で、社長(67歳)が創業者として一代で築いた会社でした。社長には2人の娘がおられ、長女と次女はサラリーマンと結婚して専業主婦になっていました。後継者問題に悩み続けた社長は、数年前に長女の婿に後継者として打診したところ、渋々ではあったが承諾を得ることができ、会社に入社してもらいました。(次女の婿からは一蹴されました。) 娘婿の仕事振りは大変良く人望も出てきたので、2年ほど前に65歳になるのを機に社長の座を譲ろうかと考えていました。

ところが、その直前思わぬことに長女が子供を引き取って離婚してしまいました。社長としては困惑しましたが、娘婿にはこのまま会社に残り次の社長になってほしいと遺留しました。しかし、説得の効果なく退社してしまいました。こうなると従業員から後継者を選ばなくてはなりません。借入金も多く外部から連れてくるのは無理と判断しました。候補者として取締役に就任していた50歳前後の営業部長と製造部長と経理部長を考えましたが、製造部長は人づきあいが苦手なタイプなので無理と判断、営業部長か経理部長のどちらかにしようと考えました。そこで、いろいろな方にアドバイスを求めましたが今一つ納得できず、私のところに相談に来られました。

社長の話によると、営業部長は外交的なタイプでお客様に好かれ成績を上げているが、数字に弱く人が良すぎることころがあり注意しているとのことでした。経理部長は営業部長と同期入社で、数字に強く金銭感覚もしっかりしているが、やや頑固で融通がきかないところがあるということでした。しかし、社長の話だけを踏まえてアドバイスは無理であると申し上げ、経営改善のお手伝いをしながら、人物の見極めをさせて欲しいと依頼しました。そして、それから1年間経営コンサルタントとしての仕事をしながら、人物の見極めに努めたところ、2人ともほぼ社長の観察通りの人間であることが分かりました。

さて、皆さんはこの事実を踏まえてどのようにアドバイスされますか?経営判断に唯一の正解はありませんが、相談者が腑に落ちるようなアドバイスが最も適切なアドバイではないかと私は考えています。社長からいろいろとお話を伺い、また1年間、営業部長や経理部長と一緒に仕事をしてきた私としては次のようにアドバイスしました。

(1)後継者としての適性判断

中小企業が生き残っていくためには「営業」がもっとも大事であり、この部門に優秀な人材を配置していることが多いようです。しかし、同一業務を20〜30年間やらせると、人間はその経験の範囲内でしか物事を考えられなくなります。そこで、経営幹部候補生には計画的に複数業務を経験させることが大事です。しかし、これを系統的に行っているのは大企業だけで、中小企業では一旦配置したら、退職するまで同じ業務をさせることが多いように思います。職人を育てるという観点からはこれで良いのですが、経営者や経営幹部を育てるという観点からすれば、対象者については計画的にローテーションを行い、重要業務を複数経験させることが大切です。
 
当社の場合は、残念ながら候補者の2人とも職人みたいに育っており、全体を見渡す視野は持っていません。また、当社は過去の新規事業の失敗から多額の借入金を抱えており、資金繰りに失敗するわけにはいきません。営業部長には、数字に基づいた営業活動をアドバイスしてきましたが、なかなか受け入れて貰えず身に付かないようです。
このような条件の中で後継者を選定するとすれば、数字に強い経理部長を社長に据えて、資金繰り重視で経営をしていくしか方法はないと思います。なお、経理部長には、経営者としての教育を早急に施していく必要があります。

(2)後継者としての育成と社内の体制整備。

経理部長への教育としては、副社長に昇格させて意識改革を図ること、外部の研修会に参加させてマネジメントを勉強させること、などが重要だと思います。また、仕事の幅も広げて社長の仕事を順次代行させ、スムーズに社長交代ができるように持っていくべきです。さらに、経営コンサルタントを相談相手として活用して良いということにしておけば、後継者としての育成がスピードアップするものと思います。
また、当社は創業者経営に珍しく組織体制ができあがっていますが、もういちど役割分担など見直して、組織で仕事ができるように持っていくべきです。このようにしておけば、誰がトップになっても、仕事は滞りなく行われると思います。

(3)自社株式の承継と金融機関借入についての個人保証

自社株式の承継と金融機関借入についての個人保証は、子息が承継する場合はそう大きな問題にはなりませんが、従業員が承継する場合は大きな問題となります。当社の場合は、従業員が承継し子息・子女は今後とも継がないということになりましたので、自社株式を後継者に計画的に譲渡していくことが望ましいと思います。経営と所有が一致することが「やる気を醸成」させます。但し、後継者一人で持ち切れないのであれば、一部を他の役員にも持ってもらうことを検討しても良いと思います。しかし、その場合でも後継者が51%以上保有できるように配慮することが大切です。
個人保証については、後継者に法律的意味を良く説明した上で、交代までに債務の圧縮を図っていくことが大切です。

1年がかりの相談でしたが、結論からいいますと相談者はこのアドバイスを受入れ、経理部長を後任社長含みで副社長に昇格させました。また、同時に営業部長を常務取締役に昇格させ、2人が協力して経営をしていく体制を作りました。当初社長としては、営業部長を後継者にするという考えでいましたが、いろいろと相談を進めていく中で、会社が存続できるもっとも現実的なプランを見つけたと思います。
なお、私から経理部長には、事業承継にあたっては、@「守・離・破」の考え方で取り組むこと、A聞く耳を持ち謙虚さを大事にすること、Bメンターを持つことなどをアドバイスしました。
以上

中小企業診断士 佐々木 文安

メールはfumiyasusasaki@yahoo.co.jpまで願います。



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