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2011年8月 資金と資金繰り その3 「回転期間」について
中小企業診断士 渡邉 勲
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回転期間について
これまで、資金と資金繰り、資金繰り表について取り上げてきましたが、もう少し補足するものとして売り上げ代金の回収までの日数、仕入れた在庫品の販売までの日数、仕入代金の支払までの日数などの算出の仕方を取り上げてみました。
財務分析では、売上債権、棚卸資産、仕入(買掛)債務などについては回転率という指標を使いますが、回転期間(所要日数または月数)で表示した方が直感的にわかりやすいので、回転期間で説明します。
難しくありませんので、ぜひやってみていただき自社の資金の流れや特長をつかんでいただきたいと思います。
1..売上債権回転期間(日数または月数)
売上債権回転期間とは、商品を販売すると売上債権となりそれが回収されるまでにかかる期間を、日数または月数で示す指標です。
(売上債権回転率の分母と分子を逆にして、売上高を期間で除して算出します。この回転期間は、期間が短ければ短いほど現金化が早いことを意味しています。)
計算式は以下の通りです。
(例)
年間売上高 3,000,000千円
売掛金残高200,000千円、受取手形残高100,000千円の場合
( 200,000 + 100,000 ) ÷ ( 3,000,000 ÷ 365 ) = 36.5 回答 36.5日
同上例で月数の場合
( 200,000 + 100,000 ) ÷ ( 3,000,000 ÷ 12 ) = 1.20 回答 1.2ヵ月
2.支払債務回転期間(日数または月数)
支払債務回転期間とは、商品を仕入れて仕入債務としそれを支払うまでにかかる期間を、日数または月数で示す指標です。
仕入債務回転率の分母と分子を逆にして、売上(仕入)原価を期間で除して算出します。この回転期間は、期間が短ければ短いほど支払いが早いことを意味しています。
計算式は以下の通りです。
(例)
年間売上(仕入)原価 2,000,000千円
買掛金残高150,000千円、支払手形残高70,000千円の場合
( 150,000 + 70,000 ) ÷ ( 2,000,000 ÷ 365 ) = 40.15 回答 40.15日
同上例で月数の場合
( 150,000 + 70,000 ) ÷ ( 2,000,000 ÷ 12 ) = 1.32 回答 1.32ヵ月
3.売上債権回転期間と仕入債務回転期間との関係
仕入債務回転期間 > 売上債権回転期間であることが望ましいですが、業種業態や企業の信用度等によっても異なります。
図示しますので、どういうことなのかは理解を深めておいてください。
売上債権回転期間と仕入債務回転期間との関係図
参考までに中小企業庁の中小企業の財務指標によると、業種別「売上債権回転期間」と「買入債務回転期間」を示すと、以下のようになります。
売掛金の回収期間を示す売上債権回転期間は、売上の対象が一般消費者で、現金売上がほとんどの飲食業や小売業の場合は、相対的短く、卸売業や製造業などのように売上のほとんどが法人企業であり、なお手形決済が行われる業種、業界では長いという傾向があります。
4.在庫回転期間
在庫回転期間とは、商品を仕入れてどのくらいの月数(または日数)で販売されるかをみる指標です。在庫回転期間は、期間が短ければ短いほど商品を仕入れてから在庫している期間が短く、よく回転している(=よく売れている)ことを意味します。この回転期間が長い場合は、過剰在庫や滞留在庫となっている可能性があります。したがって、在庫回転日数は商品別にみることが必要で、売れ筋商品、死に筋商品の判別にも使われます。
計算式は以下の通りです。
(例)
売上原価 2,000,000千円 棚卸資産 100,000千円の場合の回転日数(月数)
100,000 ÷ ( 2,000,000 ÷ 365 ) = 18.25 回答 18.25日
100,000 ÷ ( 2,000,000 ÷ 12 ) = 0.6 回答 0.6ヵ月
(注)在庫回転期間は、着工から完成まで期間を要する建設業などでは長く、次いで一般的な製造業や小売業、卸売業ではこれよりやや短くなっているようです。
5.その他資金繰りに関係のある指標
その他資金繰りに関係のある指標には、以下のものがあります。
@当座比率
当座比率とは、当座資産と流動負債の金額を比較することで、企業の短期的な支払能力を判断する指標です。
当座資産とは、現預金や売掛債権、有価証券など、流動資産の中でも特に換金性の高い資産のみで、棚卸資産や換金性のない前払い費用等を含みませんので流動比率より厳密な指標です。
当座比率は、100%以上であると支払い能力には問題がないとされています。150%くらいあるとかなり良好、70%以下ではかなり厳しいとされています。
当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債
(当座資産 = 流動資産 − 棚卸資産等)
流動資産とは、おもに1年以内に資金化が見込まれる資産(一年基準:one year rule)であるのに対し、当座資産とは、現預金や売掛債権、有価証券など、資産の中でも特に換金性の高いものだけに限られています。
※一年以内に期限が到来する満期保有目的債権があれば含めます
A現預金月商比率(手元流動性比率)
現預金月商比率とは、ある時点(通常は決算日)において、会社が月商の何ヶ月分のキャッシュを保有しているかを示す指標です。現預金月商比率は手元流動性比率とも呼ばれます。
現預金月商比率 = (現金+預金+短期有価証券) ÷ (月売上高 )
資金繰りは、資金の全てを事業活動に投下してしまうのではなく、万一の場合に備えて常に一定の資金を運転資本として現金や普通預金等として保有しておく必要があります。この運転資本として保有している現預金の月商に対する割合を、現預金月商比率といいます。
現預金月商比率は、手元流動性比率とも呼ばれ、銀行が企業の安定性を見る指標としてかなり重視しています。具体的には、1ヶ月(月商)以上であることを一つの基準とし、高ければ高いほど倒産危険度がいとされています。中小企業では1.5ヶ月(資金調達力のある大企業は1ヶ月)分くらいを目安にとするのが一般的です。決算日だけでもこの水準をクリアしておくと決算書はかなりよくなります。
B借入金依存率
長短借入金の総計が、総資本に占める割合を示す比率で、この比率が高いほど借入金に依存している事になります。
借入金依存率= 長期・短期借入金合計÷総資本×100
C自己資本比率
自己資本の総資本に対する割合を示す比率で、資本の調達源泉の健全性を示す比率です。
自己資本比率=自己資本÷総資本×100
D現預金回転日数
現預金が入金されてからどれだけの期間で支出されるかを示す手許流動性を示す指標です。相対的に長いことは、資金的な余裕を示しているものと見られますが、預金には拘束性預金を含まれているため、注意して判断する必要があります。
現預金回転日数= 現金預金 ÷ 売上高 × 365
以上、資金と資金繰り、回転期間について、みてきました。資金と資金繰りついてより理解を深めていただけたと思います。収益、利益のことに目を奪われがちですが、中小企業経営者の皆さんは、それ以上に資金繰りに悩んでおられると思います。
なお、回転期間については月次決算(月次試算表)が必要となります。少なくともよく月初7日(1週間)以内には終わらせチェックに使うようにしたいものです。
中小企業診断士 渡邉 勲
メールはwatanabe−bsl@nifty.comまで願います。
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■―――――――――――――――――-―― NPOみなと経営支援協会−201107―■
以 上