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2011年8月 「後継者の選定について思うこと(長男か三男か)」
中小企業診断士 佐々木 文安
メールはfumiyasusasaki@yahoo.co.jpまで願います。
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経営コンサルタントして「事業承継支援」を専門分野の一つとしていることから、これに関するさまざまな相談が持ち込まれています。
相談を受ける際には、最初に全体像(会社の事業内容・資産内容・株主構成、個人の資産内容・家族構成・家族関係など)を詳しくお聞きするとともに、相談者の考えている対応策とその理由についても根掘り葉掘りお聞きするようにしています。このことにより、事実関係を正確に把握することができ、また相談者の希望も汲み取ることができるからです。
ところで、最近後継者選定に関する相談がありました。
会社は売上高数十億円・従業員百数十人のメーカーで、社長(68歳)が創業者として一代で築いた会社でした。社長には3人の子息がおられ、長男(40歳)と三男(36歳)が入社しており、どちらを後継者にしたらよいかというものでした。次男は医者となっているということでした。
何故相談に来られたかというと、社長としては長男を後継者と考えていたが、周囲やコンサルタントが、長男より三男が経営者として適性があり三男を後継者にすべきだと言っているので、迷っているとのことでした。
確かに長男はしっかりしているが大人しく内向き傾向であり、三男は外交的で営業力もあり、社内でも人望があるということでした。社長としては、どちらが後継者になってもよいように、二人とも現場と営業を経験させていました。自社株式は、二人に僅かですが同数贈与しているということでした。二人とも健康で元気に働いており、仲は悪くなく、またそれぞれ結婚して子供がいるとのことでした。
さて、この相談に皆さんはどのようにアドバイスされますか?
経営判断に唯一の正解はありませんが、実行する方が腑に落ちるようなアドバイスが最も適切なアドバイではないかと私は考えています。いろいろとお話を伺った上で、私としては次のようにアドバイスしました。
(1)創業社長から二代目に事業承継をするうえで最大の課題は社内の体制整備。
創業者はすべての業務を理解しているのでフラットな組織でも経営できますが、数十億円の売上規模の会社となると、二代目は組織で役割分担し合意を大事にしながら経営するしかありません。そう考えると、事業承継に関して現在の経営者が力を入れるべきところは、組織を整備してそこの部門を担う経営幹部を育成し、経営幹部が自律的に動くような会社にしておくことだと思います。
このような会社を作っておけば、後継者にどのようなタイプの人がなっても、経営は継続できるものと思います。
なお、このような会社になった場合の後継者選定では、「大人しく内向きだから適性がなく、外交的で営業力があるから適性がある」という考え方は成り立ちません。むしろ慎重な性格で、組織を活用してバランスよく経営ができる人が後継者としてベストと考えるべきだと思います。
(2)後継者として適性があるかないかは、実際に社長にしてみないと分からないのが実情。
性格が暗く適性がないと烙印を押された人が名経営者になっている実例は数えきれないほどあります。逆に、明るく外交的で適性があると太鼓判を押された人が、会社をつぶしている実例もたくさんあります。このような実例をたくさん見てくると、世間で言われている「適性がある」「適性がない」は、いかに当てにならないかが分かります。
私は後継者の条件として、「後継者になる意思」と「仕事に耐えられる健康」と「普通のコミュニケーション能力」の3つを有していればよいのではないかと考えています。あとは、経営者の地位について一生懸命役割を果たしていくなかで、「責任感」「決断力」「実行力」などの経営者に必要とされる資質は醸成されてくるものと思います。
(3)規模の大きな企業では、後継者候補は複数持つこと
今回のご相談は「後継者は長男か三男か」の二者択一になっていますが、どちらを後継者にしても、生身の人間ですからいつ病気で倒れるかもしれません。当該企業は従業員が百数十人いる中小企業としては大きな企業です。このような企業であれば、必ず複数の後継者候補を育てていたほうが企業の存続のためには良いと思います。長男と三男は仲が良く、それぞれ違う持ち味を持っているわけですから、これを最大限生かすことを考えたほうが良いと思います。
以上の通り説明をしたうえで、下記のような構想で進められてはいかがかとアドバイスしました。お互いを競争させるのではなく、協力し合う関係を築かせるほうが、企業の発展も図れるし、利害関係者の理解も得やすいということを強調しました。
(1) 長男と三男を共同経営者とし、まずは長男を社長、三男を副社長とする、
(2) そして10年後ぐらいに長男を会長、三男を社長とする、
相談に来られた方はこのアドバイスを受入れ、長男・三男を呼んで話をしたところ、二人とも何の不満もなくそれでよいと納得したとの報告がありました。しかし、あとで良く考えてみると、相談者は最初からこのようにしたかったのではないか、その判断に間違いないか確認のために来られたのではないかという気がしました。
以上
中小企業診断士 佐々木 文安
メールはfumiyasusasaki@yahoo.co.jpまで願います。
■――――――――-―――――――――― NPOみなと経営支援協会−201108―■