●2011年 5月 「資金と資金繰り」について(その1)
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2011年 5月 「資金と資金繰り」について(その1)
中小企業診断士 渡邉 勲
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資金と資金繰りについてです。知っているわかっていることと思いますが、改めて理解を深めていただければ幸いです。
■資金とは
まず、資金についてです。事業を営んでいる(会社を経営する)と事業のために使う資金(お金)が必要となります。このように企業(会社)や商店などの事業体を運営(経営)していくために使用される金銭のことを資金といいます。
その金銭のやり繰りのことを資金繰りといいます。企業は事業のためのお財布が底をつかないように、不足を生じないように日々やり繰りをしていなくてはなりません。
こんなことを知らない経営者の方は一人もおられないと思います。
でも、よく考えてみてください。日頃は儲ける(利益を出す)ことが中心で資金繰りのことがややおろそかになっていませんか。いやそんなことはないよ、日々資金繰りに追われているよ、と反論される経営者の方も多いと思われます。
ここで、ビジネスについて復習も兼ね確認をしておきましょう。一般的には、多くの事業では自ら出資した元手資金や創業時の借入で資金を調達し、その資金で商品を仕入れ(購入=資金支出)、在庫し、販売(売上=代金回収)するというサイクルを回していきます。このサイクルのプロセスで資金が流れ、利益が生み出されるのです。
では、なぜ、資金不足になり金融機関等からお金を借りなくてはならないと駆けずり回っているのでしょうか。
自分で出資した元手(資本金)で日々現金取引でのビジネスであれば、資金不足は生じません。なぜ、資金不足となるのか、もうお分かりですね。実際の事業活動では支払いと回収に時間的なずれが生ずるからなのです。また、1年というサイクルでとらえると毎年周期的に発生する資金や一時的に発生する資金もあります。
お金の出入りとか資金の出納といいます。字をよくご覧ください。出るが先で入るが後、出るが先で納めるが後です。つまり通常のビジネスでは、仕入代金や経費の支払いが先行し、販売による資金の回収が後になっているからです。
通常は、この仕入支払いと販売回収から差額としての利益が計上されますが、回収が後になりますから利益も後になるのです。このような資金の流れがキャッシュフローです。
このようにお金の流れと利益の発生とに時差によるずれが発生するのです。このことの理解を十分深めておいてください。「勘定合って銭足らず」とか「黒字倒産」とかが生ずるのはこの流れのずれから生ずるものです。そして、この流れを日々とらえ不足の生じないようにするのが「資金繰り」なのです。
■資金の種類(運転資金と設備資金)
資金と資金繰りのついては、復習し理解を深めていただけたと思います。
資金について、もう少し詳しく見てみましょう。通常、資金は経常的に発生する運転資金と設備投資の際に発生する設備資金の2つに大別されます。
運転資金とは、日常の商品の仕入代金の支払い、外注先への支払い、人件費などの諸経費の支払いなど、通常の日常業務のために必要となる資金のことです。
設備資金とは、建物や機械設備、車両などの固定資産を取得(購入)するために必要となる資金です。日常必要とするものでなく、取得(購入)時に必要となるものです。
■運転資金について
運転資金については、企業が日々のビジネスを運営していくのに必要な資金のことですが、日々の事業活動は常に変化しており、この変化に伴い影響を受けます。また、前述のように周期的に発生するものや一次的に発生するものなどがありますのでので、もう少し詳しく見てみましょう。以下のように分けて把握するとわかりやすくなります。
@ 経常運転資金
経常運転資金とは、企業の正常な営業活動に伴って日々発生し、経常的に必要となる運転資金です。したがって、周期的なものや一時的なもの、正常でないものは除きます。そして、これらは、以下のようにとらえます。
A増加運転資金
増加運転資金とは、業容拡大や売上伸長による経常運転資金の増加分のことです。売上の増加に伴い仕入(在庫)資金や回収資金(売掛金)が増加するので従来以上に新たに発生する運転資金です。
売上先の業績悪化などによる回収条件の変更による回収の遅延、長期化や仕入代金の支払いを早めるなどによることもありますが、これは原則として含まれません。
B季節資金
季節資金とは、ファッション衣料品やシーズンスポーツ用品のように取り扱う商品に季節性がある場合、原材料・商品の仕入や生産時期、販売の時期がその季節に集中することにより発生する資金です。必要とする時期に季節性があるのでこう呼ばれています。ほぼ毎年同じ時期に発生しますので容易に把握できます。過去3〜5年くらいの実績動向も把握しておきましょう。
B決算資金
決算資金とは、企業の決算に伴って発生する法人税等の納税、配当金や役員賞与の支払いのために必要となる資金のことです。これも毎年おなし時期に発生しますので把握できます。決算賞与を支給する場合はここに組み入れます。賞与資金と同時期に発生することが多く、その場合は、括られて「決賞資金」と略されることもあります。業績に左右されます。
C賞与資金
賞与資金とは、従業員への賞与支払いのために必要となる資金のことです。通常は夏と年末に発生します。(決算資金と同時期に発生する場合には、前述のように「決賞資金」として括られることもあります。)
C減産資金
減産資金とは、増加運転資金とは逆に売上の減少に対応して生産も減少させていく場合に発生する資金です。生産を減少させても、仕入を直ぐに少なくすることが困難といった場合に発生する一時的なものなのですが、減産後も利益が見込まれるような場合に限られます。
D在庫資金
在庫資金とは、在庫の増加により必要となる資金です。新製商品の発売開始前などのように意図的に在庫を備蓄しておくような積極的なものです。また、売上不振や欠陥による大量の返品など企業の意図に反して発生する場合があります。後者の場合は注意が必要です。
Eつなぎ資金
つなぎ資金とは、増資や補助金・助成金の受給など資金調達が確定はしているが、支払いが先行する場合に必要となる一時的な資金です。増資や資金交付までの短期間必要となる資金です。増資や補助金・助成金交付などが確定していることとそれを証明できる資料が必要です。また、請負契約による事業建設工事やシステム開発のように契約物件ごとに回収(入金)日が決まっているような場合には、進捗度合いのより支払いが先行し回収が後になるというずれが生じ発生します。業種によってはこれが当たり前ですので、これが経常の資金繰りとなります。
F月中資金
月中資金とは、毎月の定まった支払日と売上先からの回収日によって、月中に一時的な資金不足となるような場合の資金です。いわば月中のつなぎ資金です。これは極力発生しないような資金繰りが必要です。
G借入金の返済資金と支払利息、割引料
金融機関等からの長短借入金の約定返済のための資金です。また、約定による支払利息や手形割引を利用している場合はその割引料の支払いも必要です。支払利息は予め算出しておくことが可能です。
以上、運転資金を細かく見てきました。どういう資金がいつ必要なのかを十分に把握しておく必要があります。
そのためにも日々現金や預金の出納長記帳だけでなく、資金繰り表を作成し記録しておくことが必要です。このように資金繰りは日々の把握が必要なので、これはご自身でやるか社内で行う必要があります。税理士さんは適正納税のために記帳代行、試算表作成等のお手伝いはしてくれますが資金繰りはやってくれません。また、試算表によるキャッシュフロー計算書は決算結果から分析するもので、日々の資金繰りを管理するものではありません。このことについても理解を深めておいてください。
■資金の動きと在庫・債務・債権の動き
物販業での資金の動きと在庫・債務・債権の動きを+ と − で表にしましたので、どう関連して動いているのかをよく見て理解を深めておいてください。
■資金繰りと損益(利益)計算について
こんなたとえがありますので、理解を深めておいてください。
資金繰りはボクシングの試合で、利益計算は野球の試合である、ということです。
ボクシングの試合では初回にノックアウトされてしまえばそこでお終いです。企業の資金繰りも資金もたった1円でも預金口座や手持ち資金が不足してしまえば、銀行取引停止となり事業そのものもそこでお終い、倒産です。
これに対し野球の試合では初回に大量点を取られても9回までにそれ以上の得点を挙げれば勝ちになるのです。したがって、赤字となっても一定期間後に利益を出せれば企業は存続できるのです。この違いについてお分かりだと思いますので理解を十分に深めておいてください。そのためにも日々の資金繰りはおろそかにしてはならないのです。ある程度の余裕を持つように日頃から心がけている必要があるのです。
こうした資金の動きを把握するために資金繰り表が使われますが、資金繰り表につきましては、長くなりましたので次回とします。
中小企業診断士 渡邉 勲
メールはwatanabe−bsl@nifty.com
まで願います。
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