特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2010年9月ITを用いたシフト作成による小売店のレイバーコントロール

●2010年9月ITを用いたシフト作成による小売店のレイバーコントロール

●2010年9月 ITを用いたシフト作成による小売店のレイバーコントロール

■経営お役立ち情報  ビジネスヒント情報―――――――――――――――――――■

2010年 9月 中小企業のIT活用シリーズA
「ITを用いたシフト作成による小売店のレイバーコントロール」
〜人員配置の最適化ソリューション〜

中小企業診断士 栗田 剛志

メールはt-kurita@m9consulting.bizまで願います。


■――――――――――――――――――――――― NPOみなと経営支援協会−■

T.はじめに

未曾有の不況が小売業界を襲っています。全国百貨店の売上高(既存店ベース)は、2010年5月を終えて27か月減少が続き、比較的影響を受けにくかった食料品に関しても対前年比のマイナスが連続しています。

売上があろうとなかろうと、店をオープンしている間は販売員を配置しなければなりません。利益をねん出するには、極力無駄を排し、作業量に応じた人員配置を行う必要があります。これは、小売業の宿命であり、売上が減少傾向にある中で、いかに販売効率や人件費効率を高めていくかが重要になってきています。

例えば、百貨店等に菓子や惣菜の売場を展開する店を見てみましょう。時間帯、曜日、月、季節によって来客数にばらつきがあり、当日行われるイベントによっても客層が異なります。繁閑や来店する客層に合わせて、効率的な人員配置を行いたいがうまくいっているところは多くはありません。

不況を乗り切るための勤務シフトは、目先の数合わせに終始するのではなく、売上に対するコストとしていかにコントロールするかが重要をなってきます。予算と実績の徹底的な管理、適正な人員配置による手余り・売り逃しの削減、売場と営業担当者や本部の情報の共有化が必要とされ、システムとしてコントロールしていく必要があるのです。人件費をいかにかけなかったではなく、人件費がマネジメントによってきちんとコントロールされているかを検証すべきなのです。
 
U.売場では何が行われているのか

現実の売場ではどのようなシフト管理が行われているのでしょうか。

百貨店の食品売場にあるショップを例として取り上げてみましょう。
売場では、売上や繁閑に合わせた適切なシフトラインをひくことが店長の大きな仕事の一つとなっています。この作業は、慣れることはあっても、その作業時間を大幅に縮めることは簡単ではありません。

主な課題として3つ挙げてみましょう。

1.手間のかかるシフト作成
従来、シフト管理はそれぞれの使い勝手の良いフォーマットに手書きで作成されてきました。IT化が進んだ昨今でもこの状況に大きな変化はなく、大半のショップは手書きによってシフト表を作成しています。

店長がシフトを作成するうえで、考慮しなければならない点として、以下のようになります。
@予算と集客に見合った必要人数
A早番、中番、遅番といった時間帯別の区分
Bスタッフのスキルを考慮してのバランスの良い配置
Cスタッフ各人の都合
D営業担当者や本部の意向

ベテランと新人では、接客スキルも人件費の単価も異なります。頭数さえ揃えればいいというわけではなく、スタッフのスキルを踏まえた人員配置を行い、売場の接客レベルを平準化しなければなりません。
一方、販売効率を追求しすぎると時間単価の高いベテラン中心の配置となってしまい予算をオーバーしてしまいます。
配置できる曜日や時間帯が一定に決まっているスタッフばかりとは限らず、また、どのスタッフがどの曜日や時間帯を希望しているかを把握するのも容易ではありません。

また、完成したシフト表の確認や調整は、基本的には電話やファックス、携帯電話のメールでのやり取りで行われ、その場ですぐ連絡が取れない場合は確定が翌日以降に持ち越すこととなります。

このように苦労して作成されたシフト表は、店長より営業担当者や本部に対して報告され、予算上の認可を受けなければなりません。スタッフごとに異なる時間給から算出した人件費総額の計算は非常に複雑であり、計算間違いが起こりやすく、営業側で再計算した総額が食い違ってしまうことでシフトの組み直しになることも頻繁に発生します。

勤務シフトの作成というものは、非常に手間と時間のかかるものなのですが、ショップの運営はこのシフト作成の精度に大きく左右されるため、手を抜くことができない作業なのです。

2.柔軟性に欠ける対応
売場の来客数は、季節や曜日、時間帯よって大きく変化します。その変化に柔軟に対応し、必要な要員を確保すると同時に、手余りを最小限に食いとどめなくてはなりません。

スタッフの突然の欠勤や臨時の増員は、迅速な対応がしにくいのが現実です。補充したい曜日や時間に入れる人員を探すには手間と時間がかかるため、手配をあきらめ結局少ない人数で対応することで売り逃しによる機会損失や、クレームにつながってしまうこともあります。

既婚者や子どもがいる主婦といった働く時間に制限があるスタッフがいる一方、誰もが働きたいと思う売場であれば均等に働く時間を割り当て、不公平感をなくす必要があります。
狭い売場内での仕事は、人間関係にも大きな影響を及ぼします。相性の悪いスタッフを同時に勤務させることで、売場自体のモラールに悪影響を及ぼす可能性もあります。

このような複雑な事情は、シフトを組む上で重要な指針となるのですが、そのような情報は全て店長の頭の中にあります。店長の経験やカンに依存していたシフト作成は、いざ店長がいなくなると売場への引き継ぎができていないことがほとんどです。

過去に作成した紙ベースでの記録は残るものの、そこからはスタッフの特性や人間関係、スキルについて読み取ることはできず、新しい店長にとっては、シフト作成が非常に大きな負荷となります。

3.勤怠管理と連動していない
シフト作成や予算管理が売場任せになっており、営業担当者や本部での適切な管理がなされていないことが少なくありません。大枠の予算は売場に伝えてはあるものの、その適切な使い方やバランス配分は店長に任せきりであり、店長が作成したシフト表を見ても、何を根拠に組んだシフトなのかを一目で把握することが難しいのが現状です。
また、実際に勤務した時間と予定との整合性を図ることも結果待ちとなり、全てが事後での調整となっています。

勤怠管理を月次で締めた後は、膨大な事務処理作業が営業担当者や本部で行われることとなります。煩雑な計算が伴うことから時間がかかり、営業担当者においては本来の業務に支障を来すことも考えられます。

営業担当者や本部が本来管理すべき部門別、ブランド別、担当者別、店舗別、売場別、一人当たりの生産性といった項目を算出するにも手間がかかり、スピーディーな検証を行うことが思うようにできません。

V.ITを活用して何ができるか
小売業のショップで勤務シフトを作成する作業は、非常に時間と手間がかかるものであり、貴重な店長の販売力を犠牲にしている面もあります。
事務処理も煩雑であり、費用対効果の結果検証がスピーディーに行えるとは言い難いのが現状です。

多くの売場が抱える共通の課題に対する解決策として、ITの活用が挙げられます。非効率な手書きのシフト表から脱却し、効率のよいマネジメントを行うためにはITの活用が必要なのです。

勤怠管理やシフト作成のソフトは、様々なメーカーが特色を打ち出しながら販売しています。それぞれに特徴がありますが、基本的な機能によって可能となることを説明していきます。

まずは基本情報として、店舗ごとにスタッフの情報を入力し、データベースを作る必要があります。基本的な情報である氏名、年齢、住所、電話番号、携帯電話のメールアドレスといった属性から、スキルレベル、勤務可能な日時、時間ごとの時給(昼の時間帯、夜の時間帯、深夜の時間帯別)をいった店長がシフトを作成する上で必要な情報を登録していきます。

売場の特性に合わせてあらかじめ標準的なシフトパターンを登録しておくこともできます。標準形をベースにすることでスピーディーにシフト表を作成することができます。
売上や来客数に応じた必要最低人数、開店前・閉店後の作業を加味した頭数と役割分担を設定し、スタッフを割り当てて行くことで自動的に経費が計算され、一日単位での予算確認が可能となるのです。

このように自動作成をしたシフト表をもとに、微調整を行えば作業を完了することができ、手書きの作業に比べると圧倒的に費やす時間が少なく、間違いも起こりにくくなります。

完成したシフト表をスタッフへ配信する際や、突然の欠員に対する募集は、携帯電話のメールを活用します。常に持ち歩き手軽に活用できる携帯電話に一斉メールを送ることで、レスポンスも早く効率的に連絡が取れます。従来のように、空いている可能性の高いスタッフを順番に電話をして確認する必要がなく、迅速な対応が可能となるのです。

シフトの確認についても、携帯電話を用いたWEB上で確認できるようにすることで、スタッフがシフトに入っているのをうっかり忘れるといったことがありません。
シフトに関することのみならず、売場の連絡事項などに関しても、メール配信で多数に伝えることができるようになります。

営業担当者や本部が情報を共有することで予算と実績の管理が容易になり、コスト管理が容易になります。また、結果を検証するのも容易であり、次のシフト作成に活かすことができます。

給与や勤怠に連動させることで、事務処理作業の軽減を図ることができます。社内の部門間でのデータ交換も容易になり、同じような数字を伝票に起票する回数も削減できます。
結果として売場、本部において、重要な売場情報が蓄積され、今後のシフト作成や販売戦略の策定に対しても有効に活用できるようになるのです。

W.時間やコストの削減効果
一般的なモデルとなるが、単純な計算でどれほどの削減効果があるかを試算してみましょう。
〈本社での効果〉
・勤怠実績の確認、修正、入力作業の削減
・本社内の部門間のスムーズなデータ交換
社員2名が関わっていた勤怠管理作業が1日以上削減されたとします。
1か月に8時間この仕事をしたとして、一人当たりの人件費を2,000円/時間とすると

2名×8時間×12カ月×2,000円=348,000円/年

のコスト削減効果を見込むことができます。

〈店舗での効果〉
・店長のシフト作成・連絡・集計の効率化
・本部・営業担当者との情報の共有化
シフト作成時間が従来6時間かかっていたものが2時間に短縮されたとします。10店舗あるとして、店長一人当たりの人件費を1,500円/時間とすると、
4時間×10店舗×1,500円×12カ月=720,000円/年

のコスト削減効果を見込むことができます。

この他にも、店長が売場に出て販売に時間を割くことができることによる、販売力向上や、人件費の効率的なコントロールにより、手余りや売り逃しが削減され販売効率の向上を図ることができます。
スタッフ情報の登録と過去のシフト作成の記録が残ることで、店長が変わってもスムーズにバトンタッチをすることができ、引継コストを削減することができます。

X.おわりに
今回は、百貨店におけるショップでの事例を参考に記述したが、このほかにもシフト管理が重要な業種は多々あります。

例えば、病院であれば3交代制のシフトを組む必要があり、夜勤などの制約条件が多くシフト作成は困難です。ホテルといった24時間勤務に加え、宴会や婚礼といった人員配置の増減が激しい業種や、居酒屋といったドタキャンや不定期な人員が多く、人員配置が売上や評判に大きく左右する業種でも、抱えている課題は基本的に共通しています。

IT化することで全てが解決できるわけではありませんが、手間やコストの削減には必ず役に立つと考えられます。
最近では、ASPを活用した割安なサービスも提供されています。事業規模やスタッフの人数に応じて必要なID数に合わせた料金設定がされているので、活用がしやすくなっています。

労働人口が減少することが見込まれる将来、労働生産性の向上はITの活用無しでは語れないものとなっています。今後の展望としては、勤務シフトのIT化はさらに発展し、販売予測の精度向とそれに対する適切なシフト配置によって販売効率や生産性のさらなる向上を図ることができるものとなるでしょう。

中小企業診断士 栗田 剛志
H P : http://www.m9consulting.biz/
ブログ: http://m9consulting.blog40.fc2.com/

メールはt-kurita@m9consulting.bizまで願います。



■―――――――――――――――――-―― NPOみなと経営支援協会−201009―■






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