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2010年 8月 中小・小規模企業のIT活用シリーズ@
「携帯メールを活用しての診察順番案内システム
〜待ちの見える化で患者満足度向上〜」
中小企業診断士 栗田 剛志
メールはt-kurita@m9consulting.bizまで願います。
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T.はじめに
体調を崩して病院へ行った際に、とても長い時間待たされた記憶はないでしょうか。
朝一番に診てもらうつもりで診療が始まる15分前に診療所に行ったにも関わらず、既に診察券が何枚も出されていることがあります。こちらとしては、熱もありすぐにでも横になりたいのを我慢しながら通院しているのですが、先に診察室に入るのは、通院することが日課となっているようなお年寄りばかりであったりします。このような状況の中で診察の順番を待つことほど嫌なものはありません。
このような顧客(患者)側が我慢して待つしかない状態とは、通常の商売では考えらません。
そこに顧客満足という言葉は見当たりません。
医師不足と言われる中で、病院といえども、地域内での患者争奪競争は避けることができません。評判の良い病院には多くの患者が集まり、評判の悪い病院には患者が少なくなるのは自明の事実です。
一般的な民間企業のように、病院の倒産が増える可能性は少ないですが、経営という視点で見た際には厳しい状況に置かれるのは確かです。
今後、病院では、患者のストレスをいかに低減することができるかが、事業継続のカギとなることが考えられます。
U.患者の親が小児科を選ぶ基準とは
例えば小児科を考えてみましょう。患者の親はどのような基準で小児科を選ぶのでしょうか。
よほどの大病か特別な病気でない限り、自宅近隣にある小児科に行くのが一般的です。地域に1件しか小児科がないのであれば選択の余地はありませんが、複数件ある地域の場合、選択の基準は、@かかりつけである、A近い、B評判が良い、となります。
かかりつけを変更する際の動機となる最も信頼のおける情報は、クチコミです。母親同士や地域でのコミュニティを通じて交わされる情報をもとに、小児科間のサービス水準は比較されます。
つまり、患者数を増やす上で最も効果があるのは、わかりやすい患者サービスの展開をすることによって、良質のクチコミを醸成することなのです。
医療機関といえども、これはひとつの経営体です。患者とその関係者を満足させ、一人でも多くの患者に選んでもらう必要があります。患者の満足を考えることなしに医療機関経営は成り立たちません。当然といえば当然なのですが、それを意識している医療機関はそれほど多くはありません。医療機関は、今まで以上に患者に選ばれることを意識しなければならない時代が来ているのです。
では、小児科における顧客(患者とその関係者)の満足度を向上させるには、何について考えていくべきなのでしょうか。
子どもが夜から調子が悪くなり、発熱したとします。明朝、子どもを連れていく小児科を選ぶ基準は、「近くて、空いていて、手際が良い」となります。
できる限り病院での待ち時間を少なくしたいと考えるので、親として知りたいのは、「どのタイミングで病院に行けばすぐに診察してもらえるか」です。
逆に、病院に行っても診療してもらえるのがいつになるのか分からないとなると非常に不安となります。つまり、「待ち時間の解消」とは、熱を出した患者の親にとって最も分かりやすいサービスの向上なのです。多少家から遠くても、診察のタイミングが分かる小児科であればこちらの小児科を選択します。子どもの発熱程度の病気であれば、医療技術の差は考えるに値せず、診察のタイミングが分かる小児科を選択するのです。
顧客を待たせるという不満の解消を通じて顧客満足度を向上させることは、差別化する上で非常に有効手段となります。
V.携帯メールを活用した待ち時間提示による患者満足度の向上
病院内での待ち時間を解消するには、インターネットを利用した予約システムを活用することで可能となります。病院の場合、患者の様態によって一人の患者にどの程度時間がかかるかがはっきりしないため、時間割で予約を受け付けることは困難です。したがって、予約システムといっても、受付をした順番に受付番号を通院者に通知し、同時に現在の診察番号を案内していくシステムとなります。
受付番号をもらった通院者は、自分の番号が近づくのを携帯電話サイトで確認しながら家で待機し、ある程度の時間になった時点で病院に向かい診察を受けることができます。
患者とその親は、病院内で多くの時間を待つことなく診療を受けることができます。待合室が込み合うこともなく、他人のウイルスが移るのを気にする必要も少なくなるのです。
また、病院サイドにもメリットがあります。
医師のメリットとしては、誰が患者として通院して来るかを事前に把握することができることです。
私の知るある小児科の例です。2,3日前に診療した子どもの親から再び予約受付が入ったとします。「処方した薬を飲ませ、安静にしていれば治る」と診断したにも関わらず再度通院してくるとなると、医師としても気になるところです。そういった際は、診察が始まる前に医師側から患者の親に電話をいれて、どうしたかを事前に聞き、場合によっては、順番を前倒しにして、早い段階で診察を行うことをします。
こうすることで、患者の親は医師に気にかけてもらっているということが分かり、安心するとともに、満足度の向上に伴ってかかりつけの医者として固定の患者となっていくのです。
さらに、小児科内のスタッフの効率化を図ることも可能となります。
患者の集中による受付の混雑を回避することができます。また、患者からの電話での問い合わせを最小限にとどめることで、院内にいる患者へのケアに集中することができます。スタッフの生産性の向上によって患者へのサービスの質の向上を図ることができるのです。
生産性の向上を通じてスタッフの人数を抑え、人件費削減効果も発揮します。
病院経営も一般的な商売と同様で、集客をし、オペレーションを効率化することで生産性を上げ、収益の向上を図ることで経営基盤を強化していかなくてはならないのです。
そのためには、通院者の満足度の向上は不可欠であり、患者やその関係者にとって分かりやすいサービスの向上が、患者数の増加に最もつながりやすいのです。
予約システムは携帯電話のメールで利用できなければいけません。予約をいれるのは大半が母親です。肌身離さず持ち歩く携帯電話からスムーズに予約できないと意味がないのです。
また、予約の受付に関しても、診療時間外、特に深夜や早朝に予約を入れることができるようにします。子どもが熱を出すのはほとんどが夜であるため、親は翌日にどうするかを考えます。その場ですぐ予約できることが患者の親の安心につながるのです。
X.おわりに
今回は、小児科の例を取り上げましたが、携帯電話を利用した予約システムの効果的な活用は小児科に限った事ではありません。
例えば休日に込みあう理容室。予約を入れて時間に縛られるのは嫌ですが、買い物に出たついでに散髪をしようと考える男性は少なくありません。その際に、理容室で待たせるのではなく、簡易予約として番号を発行し、その番号の進捗を明示することで混雑の平準化をすることができるのです。散髪をしたい顧客にとっても、せっかくの休日を理容室の待合で雑誌を読みながら時間をつぶすことを避けられます。
同じく週末に込みあう回転寿司、ネイルサロン、ゴルフ練習場など、繁閑の差が激しく、顧客が集中する度合いが高い業種には特に有効です。
顧客が待つ所に差別化するヒントがあります。「待ち」を解消するシステムは今後も新しい形で生まれてくるでしょう。顧客の時間価値を大事にすることで信頼を勝ち得て、リピート客、固定客とし、クチコミの醸成によってさらに新しい顧客を獲得できるのです。
時間は全ての人間に共通に与えられた最も平等な資源です。その時間を無駄にしないことによって顧客のストレスを軽減することができるのです。
ITを活用することで顧客満足度を向上させて勝機を掴むのです。
中小企業診断士 栗田 剛志
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